クライミング楢崎智亜に何が起きたのか 弟・明智「隣にいてあげられたら…」

C-NAPS編集部

圧倒的金メダル候補として臨んだ決勝では本来の力を出し切れず、4位で競技を終えた楢崎智亜 【Photo by Maja Hitij/Getty Images】

 東京五輪の新競技・スポーツクライミング男子決勝が5日に行われ、楢崎智亜(TEAM au)が出場。優勝候補筆頭と目されたものの本来の実力を出し切ることができず、スピード2位、ボルダリング3位、リード6位の総合4位となりメダルを逃した。

 スピード・ボルダリング・リードの3種目の順位を掛け算し、その数値が低い選手が上位となる得点方式の同競技。3位・ヤコプ・シューベルト(オーストリア)との差はわずかに1点という大接戦の展開だったが、「反省点が多く残念だった。いい勉強になった」と語るなど、五輪特有の雰囲気にのまれたことを示唆した。

 金メダル獲得の期待を一身に背負って迎えた東京五輪で、楢崎の身にいったい何が起きたのか。同競技で活躍するプロクライマーで弟の楢崎明智に、兄・智亜が五輪初代王者を逃した要因を聞いた。弟・明智の口から出たのは「僕があの舞台で隣にいてあげられたら……」という兄への思いだった。

避けたかったスピードの足上げの箇所でのスリップ

スピードの本命・バサ・マウェムが棄権したこともあり、スピードで1位を取っておきたかった…… 【Photo by Maja Hitij/Getty Images】

―――今回、五輪初採用であり、そして自国開催の五輪でした。まずは楢崎選手の全体的な出来について教えてください。

 スピード種目でミケル・マウェム(フランス)選手との対戦に勝利した以外は、「決めなければいけない場面を決めきれなかった」という印象です。“たられば”になってしまいますが、スピードの決勝でアルベルト・ヒネスロペス(スペイン)選手に勝って1位だったら金メダルでしたね。でも仮にスピードで1位になり、金メダルを獲得できていたとしても「智くんの望むクライミングではなかった」と思います。それほど本来の実力を発揮できていなかったと感じました。

 普段の練習を間近で見ている身からしても、ボルダリングやリードでの出来もあり得ない部分はありましたね。きっと智くん本人が「不完全燃焼だったことを人一倍感じている」のではないかと思います。

―――五輪特有のプレッシャーがあったのでしょうか?

 東京五輪が正式競技に採用されてから、智くんは3、4年近く金メダル候補と周囲から期待されながら準備をしてきました。さらにコロナ禍により、1年延期もありました。世界選手権やワールドカップ、日本選手権と比べても、これだけ長い期間をかけて1つの大会に向けて調整するのは非常に難しいことです。しかも、五輪初代王者を期待される立場だったので、ものすごいプレッシャーはあったと思います。

 仮に五輪ではなかったとしても、これだけの準備をした大会であれば、同様にプレッシャーを感じていたのではないかと思うくらいです。実際に試合を見ていて表情がいつもより硬かったので、かなり緊張していたとは思います。

―――決勝でのスピードの出来はいかがでしたか?

 予選で同種目1位だったバサ・マウェム(フランス)選手が決勝を棄権したことで、「ミケル選手に勝てたら智くんが1位」だと誰もが確信していたと思います。しかし、ミケル選手に勝利したものの、最後のアルベルト選手との試合で致命的なミスをしてしまいました。それは本当に悔やまれますね。

 実はスピードにはミスをしてはいけない箇所が2カ所あって、1つ目が出だしの足上げの部分です。“智亜スキップ”で駆け上がる箇所になりますね。2つ目がダイナミックにムーブする13番のランジ取りの部分。この2カ所でミスすると0.3秒、0.4秒では収まらない致命的なミスになってしまいますね。

 智くんは1つ目の部分でミスが出ました。スピードではああいうスリップは付き物ではありますが、あのミスは普段では想像できないですね。絶対にミスしてはいけないところでやってしまったという印象です。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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