レスリング・文田健一郎が銀に泣いた理由 投げ封じるグレコの基本を永田克彦が解説

千田靖呂

キューバ勢の強み「前へ出る圧力」への対策とは

文田選手を倒したオルタサンチェス選手を筆頭に、キューバ勢は「前へ出る圧力」が脅威だ 【Getty Images】

――過去の五輪でも日本勢はキューバ勢に決勝で敗れています。キューバ対策についても教えてください。

 キューバ選手の前へ出る圧力は驚異的です。グレコローマンスタイル130キロ級で五輪4連覇を達成したミハイン・ロペス選手の圧力は本当にすさまじいですよね。日本人ならではの細かい技術も大事ですが、「差し押しの技術と圧力で負けない」という根本で相手を上回ることをもう少し意識していくとよいのではないでしょうか。

 レスリングの競技レベルは上がっていますが、「スピード化」「ハイパワー化」がより顕著になっています。これはマラソンのスピード化と一緒ですね。最初からトップギアで勝負をしかけ、最後まで戦い抜ける選手が結果を出しています。そうした世界のトレンドに日本人選手もついていかないといけません。後は日本のグレコローマンスタイルにおける競技層をもっと厚くしていきたいですね。競技人口が増えれば、全体のレベルも上がりますから。

――レスリング界ではスピード化・パワー化が進む中、日本人選手が長年メダルを獲得し続けている一番の要因は何でしょうか?

 日本におけるレスリングの競技人口は全体で1万人ぐらいです。これだけ少ない競技人口でメダルを取り続けているのは、快挙ですよね。日本人選手がもっとも追い込んだ練習をしている成果だと思います。昔から五輪で勝たないとなかなか注目されない競技のため、トップの選手たちはそれこそ人生をかけて練習に打ち込んできましたから。

女子の重量級は体格差がありながら大健闘

女子レスリング 76キロ級の3位決定戦で敗れ、惜しくもメダルを逃した皆川 【写真は共同】

――76キロの皆川博恵(クリナップ)選手は3位決定戦で敗れ、メダルを獲得できませんでした。女子の重量級における世界での戦いについても教えてください。

 女子の重量級は、他国の選手と比べて体格差があります。日本の重量級における選手層は、残念ながら薄いですね。もっと体の大きな選手にレスリングをやってほしいですし、皆川選手に関してもかなり体格にハンデがありました。そんな状況で戦っていたので、本当に頑張っていると思いますよ。あれだけの体格差があり、世界選手権でも3回メダルを獲得して五輪にも出場しました。強豪ぞろいの中で戦いぬいたことを誇りに持ってほしいですね。 

――68キロ級の土性沙羅(東新住建)選手、男子グレコローマンスタイル77キロ級の屋比久翔平(ALSOK)選手の戦いぶりはいかがでしたか?

 土性選手も体格で不利なのにもかかわらず、前回のリオデジャネイロ五輪では金メダルを獲得しました。世界のレベルが上がっている中で、東京五輪を目指したのは簡単なチャレンジではなかったでしょう。屋比久選手は、3位決定戦を泥臭い試合でもいいので、なんとか勝ち切ってほしいですね。
 
――この後の日程では男女ともにフリースタイルの戦いが控えています。フリースタイルを見るうえでのポイントを教えてください。

 フリースタイルはタックルの取り合いが中心になりますので、互いに低い構えから相手の隙を作るための駆け引きが重要です。グレコローマンスタイルとは異なり、スピード感がある展開が特徴なので、いかに相手の脚に触れるのかなど、お互いの狙いどころに注目すると面白いでしょう。動きのもつれによって起こる展開の多さ、激しさがフリースタイルの魅力ですね。
 

永田克彦(ながたかつひこ)

【写真提供:株式会社RIGHTS.】

1973年10月31日生まれ。千葉県立成東高校入学後にレスリングを始め、高校時代までは無名選手も、日本体育大学入学後に頭角を現し24歳で全日本レスリング選手権を初制覇。以後6連覇を達成した(97〜02年)。 初出場となった2000年シドニー五輪では、グレコローマン69キロ級で銀メダルを獲得。日本レスリング界12大会連続メダル獲得の伝統をつなぐ。4年後のアテネ五輪にもグレコローマン74キロ級で2大会連続出場を果たし、翌2005年大晦日のK-1Dynamaite!!でプロ総合格闘家としてデビューを果たした。2010年より東京都調布市に格闘スポーツジム・レッスルウィンを主宰し、指導者としての道をスタート。毎年多くの若き才能を輩出している。2015年からは日本ウェルネススポーツ大学レスリング部の監督も歴任。2015年11月にはレスリング選手として10年振りに現役復帰し、同年12月に42歳で11年振りに出場した全日本選手権で13年振り7度目の優勝を果たし、史上最年長優勝記録を樹立した。2021年4月からは本格トレーニングジムMUSCLE-WINをオープンし代表を務める。現在は将来の五輪選手育成やトレーニング指導に尽力し、自身の経験から得た「不可能なことでも可能にする方法」「夢を現実に変える方法」を一人でも多くの人に伝えるべく、積極的に講演・イベント活動も行っている。

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著者プロフィール

1977年生まれ、大阪府出身。マンティー・チダというペンネームでも活動中。サラリーマンをしながら、2012年にバスケットボールのラジオ番組を始めたことがきっかけでスポーツの取材を開始する。2015年よりスポーツジャーナリストとして、バスケットボール、卓球、ラグビー、大学スポーツを中心にライターやラジオDJ、ネットTVのキャスターとして活動。「OLYMPIC CHANNEL」「ねとらぼスポーツ」などのWEB媒体や「B.LEAGUEパーフェクト選手名鑑」(洋泉社MOOK)「千葉ジェッツぴあ」(ぴあ MOOK)などの雑誌にも寄稿する。

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