大坂、錦織…それぞれの敗因と収穫 元プロ・森上亜希子が五輪テニスを総括

内田暁

メダル獲得を期待された大坂だったが、3回戦で敗退。試合当日、台風の影響で会場の有明コロシアムの屋根が閉まっていたことも、敗因のひとつだろう 【写真は共同】

 世界ランキング2位の大坂なおみが、女子シングルス3回戦でチェコのマルケタ・ボンドロウソバにまさかのストレート負け。2大会連続のメダル獲得を目指した男子シングルスの錦織圭も、“天敵”ノバク・ジョコビッチに敗れ、ベスト8で姿を消した。期待の両エースが思うような結果を残せなかった東京五輪のテニス競技だが、その敗因はどこにあったのか。現場で取材した元プロテニスプレーヤーの森上亜希子さんに解説していただいた。

3回戦の大坂は汗のかき方がいつもと違っていた

1回戦の大坂は、優勝した19年の全豪オープンを想起させるほどの完璧な出来だったと、森上さんは振り返る。重圧を受け止めた上で良い流れを作っていたが…… 【写真は共同】

 グランドスラムなどの大きな舞台があるテニス選手にとって、五輪は、あまり高い位置づけではないのでは……という声があります。

 ただ、五輪に見いだす価値は、本当に選手によってさまざまです。私個人としては、グランドスラムと並ぶ位置づけでしたし、テニス選手というよりも、一アスリートとして立ちたい舞台でした。

 今大会でも、勝って涙する選手の姿が多く見られます。これは普段のツアーでは、なかなか見ることのできない光景。やはり、国を背負っているという思いが強いからでしょう。

 その中でも、開会式の最終聖火ランナーを務めた大坂なおみ選手が背負ったプレッシャーは、計り知れないものがあったと思います。日本を代表するという思いもあったでしょうし、テニス選手が聖火台の点火者になったのも史上初。それは、テニス界としても歴史的な出来事でした。それだけ、いろんなものを背負って挑んだ東京五輪だったと思います。

 その重圧が試合に影響しなければいいなと思っていたのですが、1回戦の出来は素晴らしかった(中国の鄭賽賽に6-1、6-4のストレート勝ち)。私の想像以上のスタートでしたし、「これは行くな」と思わせる雰囲気がありました。
 例えば、大坂選手が優勝した2019年の全豪オープン。あの大会を私は現地で見ていたのですが、当時の練習中の表情やインタビューの受け答えの様子などと、今回の雰囲気が近いと感じたのです。

 今大会は、全仏オープン以来2カ月ぶりの試合ということもあり、もしかしたら本人的には100パーセントではなかったかもしれない。でも初戦の第1セットなんて、私から見たら完璧! これは聖火ランナーを務めたことも含め、さまざまな重圧も受け止めたうえで、ひとつの流れができているなと感じていました。

 ただ結果は、3回戦でチェコのマルケタ・ボンドロウソバ選手に1-6、4-6のストレート負け。これはまったく言い訳にはなりませんが、会場の有明コロシアムの屋根が閉まっていた影響が大きかったと思います。

 試合当日の朝、大坂選手の練習を見ようとコートに入った時、寒いと感じたんです。朝は特に強めに空調を設定しているようですが、試合の時も寒かったと思います。コートサイドで見ている茂木奈津子トレーナーも長袖でしたから。

 実際に試合中の大坂選手も、汗のかき方がいつもと全然違っていました。彼女は、「暑ければ暑いほど調子が上がる」と言っている選手で、汗をかくことで動きが良くなるタイプ。それだけに、この日の立ち上がりは身体が重そうに見えました。

 さらにはボールの飛び方や跳ね方も、屋根が閉まっていたことで、明らかに変わりました。ボールが跳ねなくなり、それは特にセカンドサーブに影響したと思います。

 もちろん条件は相手も同じなので、繰り返しになりますが、言い訳にはなりません。ただ私個人としては、3回戦敗退の原因はプレッシャーよりも、屋根が閉まり、変化した環境へのアジャストがうまくいかなかったことのほうが大きかったと思います。

 また、うまくアジャストができなかったことで気持ちもダウンしてしまったので、そこも残念でした。

 今回の結果は、大坂選手にとってすごく悔しいでしょう。ただ原因がはっきりしているので、それほど引きずることはないと私は思っています。テニスの内容は良かったですし、特に1、2回戦は「このテニスを続けられたら、誰が彼女に勝てるのか」と思えたほどでした。

 これからテニスのツアーは、アメリカシリーズが始まり、USオープンもあります。願いも込めて、また活躍してくれると期待しています。

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著者プロフィール

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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