トランポリン・森ひかるが戦った「魔物」 重圧に抗い続けた経験を、今後の人生に

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思いを込めた、宇山とのグータッチ

決勝進出した宇山と抱き合う森。18年の世界選手権ではシンクロナイズドでコンビを組み、優勝を勝ち取った間柄だ 【写真は共同】

 そんな状況でも必死の思いで練習を続け、ベストパフォーマンスを取り戻すべく抗い続けた。「こうしておけば良かった、と後悔する日は1日もありません」。迷うことなく言い切った姿に、どれだけこの舞台に懸けていたのかを垣間見た気がした。
 28日には自身のツイッターで、ファンに向けて選手村の様子をリポートした動画を投稿。重圧のもととなる「五輪」という存在を、少しでも自分にとって楽しみな場所にしたいという意図もあったのではないだろうか。こうして競技が終わった後に、笑顔でカメラの前に立つ彼女を見ると、そんな想像をしてしまう。

 宇山が2回目の試技を終え、決勝進出を決めてベンチに戻ってくると、2人はグータッチを交わした。同じ金沢学院大の先輩で、18年の世界選手権ではシンクロナイズドでコンビを組み、優勝を勝ち取った間柄だ。本来なら森の取材は決勝の試合中に行われる予定だったが、「宇山さんの試合を見たい」と競技場に戻り、先輩の姿を見届けた。後輩の祈りを、宇山はしっかりと受け止めていた。

「特に言葉を交わしたわけではありませんが、森選手が予選で敗退しただろうな、という雰囲気は感じていました。森選手の分まで頑張ろうという思いを込めてグータッチしました」

 決勝戦を最後まで見届け、この日最後の役目を終えた森は涙に暮れた。

「絶対に諦めなかったし、負けなかったので、ここまで頑張った自分を褒めてあげたいなって思います」

 今後について問われると、「何年間も生活を犠牲にして頑張ってきても、こうなってしまうのが現実で、それが本当のトランポリンの難しさだと思います。これからの人生に生かしていきたい」と、懸命に前を向いて答えた。

 あまりにも厳しい現実に直面し、すぐには次回のパリ五輪に気持ちを向けられないのは当然のことだろう。いつか森にとって「この1日が貴重な経験だった」と、胸を張って言える日が来ることを願いたい。

(取材・文:守田力/スポーツナビ)

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