インド人記者が見た“コロナ禍”の五輪「日本でしか大会開催できなかった」
ボランティアの「おもてなし」は本当に素晴らしい
ヴァサブダ記者は「(日本人ボランティアは)本当に素晴らしい」と称賛してくれた 【Getty Images】
東京に来てから水泳や射撃、ホッケーなど8つの会場で取材をしてきましたが、どの会場も今までに見たことがないほど、本当に素晴らしいです。インドの選手たちは、こうした会場で競技ができることに興奮していますね。ただ、残念なのはこうした競技場に観客が入っていないことです。ホテルで日本のプロ野球オールスターの試合を見ていたら、何千人という観客が球場に入っていましたが、それなのに五輪で無観客での開催が進んでいる理由はよく分かりません。必ず明確な理由があるとは思うのですが、私には分かりませんね……。
ともかく、観客がいればさらに素晴らしい大会になっていたと思いますが、それでも選手たちにとって東京五輪はすごくいい経験になると思いますし、世界中のスポーツファンに対してもいい印象を残せるのではないでしょうか。何十年も経った後にこの大会を振り返った時、「コロナの中で行われた五輪」というだけではなく、いろいろな側面でポジティブな内容が語り継がれていくと思います。
――今回の経験を踏まえて、次回のパリ五輪ではどのような大会にすべきでしょうか?
正直に言ってしまえば、3年後に世界がどうなっているかは誰にも分からないと思います。今から1年前には「21年にコロナは収束し、これまでのような日常が戻っている」と言われていましたが、現在も感染増加は止まる気配がありません。先日のサッカー欧州選手権では有観客で試合が行われていましたが、大会終了後に再び感染者数が増えたのは、そのことと無関係ではないでしょう。
今回の東京を踏まえた上で次回のパリ五輪を開催するとしたら、求められるハードルはかなり高いですね。パリの組織委員会も、一生懸命頑張らないと同じレベルで開催するのは難しいでしょう。例えば、日本に来る前は渋滞の問題など、会場からの移動について不安がありましたが、実際の輸送に関する運営はほぼ完璧で、問題はほとんどありません。移動のバスは全てタイムテーブル通りに運行していて、会場についてもスムーズに目的地へたどり着けるような準備がされていることは素晴らしいです。パリでも同じような運営ができるか分かりませんが、東京のレベルまで達していればうれしいですし、頑張らないといけませんね(笑)。
最後にもう1つ。日本のボランティアの皆さんの「おもてなし」は本当に素晴らしいです。少し困ったことがあれば誰かがすぐに話しかけてくれますし、英語が分からない方でもボディーランゲージを交えて「バスの乗り場は向こうです」「忘れ物がありますよ」などと親切に教えてくれます。改めてお礼を伝えたいですね。
インド選手、メダル獲得でドミノピザが生涯食べ放題
女子ウエイトリフティング49キロ級で銀メダルを獲得したチャヌサイコム・ミラバイ選手の「ドミノピザが生涯食べ放題」を報じたヴァサブダ記者 【Getty Images】
インド国内にはさまざまな文化がありますが、あれはミラバイ選手が育った地域特有の慣習です。彼女はいつでも試技の直前にも礼をしますが、日本で行われる大会だから日本の風習に合わせたわけではなく、彼女の実家がある地域で受け継がれている文化なんです。
――また、ミラバイ選手がこの大会で銀メダルを手にしたことで、今後ドミノピザが生涯食べ放題になるというニュースを目にしたのですが、これは本当でしょうか?
実は、そのニュースを最初に発信したのは私なんです(笑)。試合後の取材エリアで話を聞いている時、選手村には好物のピザがあるけど、試合前の減量のためにここまで一度も食べなかったということを言っていました。試合が終わった後に「よし、やっとピザが食べられる!」とコメントしていたので、私がそのことを原稿に書いたら、インドで大人気のエピソードになりました。それにインドのドミノピザ社が反応して、正式に決定されました。なので、本当の話です(笑)。
(企画協力・通訳:ブレット・ラーナー、取材・文:守田力/スポーツナビ)