陸上大国・アメリカはどう逆境を越えた? 平坦ではなかった選手たちの歩む道のり

「たとえ東京が中止になったとしても……」

女子棒高跳びのケイティ・ナギオットは「オリンピック出場だけが私のゴールではありません」と語る 【写真:ロイター/アフロ】

 今年1月末から、アメリカの状況は大きく好転している。新政権が発足し、ワクチン政策が機能し始めたことで感染者数が急激に減少。再始動への環境は整いつつある。2月の全米室内陸上はキャンセルされたものの、3月の大学クロスカントリー選手権と大学室内陸上は開催。4月には、無観客または観客数を制限しつつも多くの競技会が戻ってきた。6月9〜12日のNCAA陸上選手権では、今季世界トップのパフォーマンスや五輪標準記録の突破、大会記録更新など好記録が続出。その勢いを五輪選考会へとつないだ。

 好記録連発の一方で、選手たちを苦しめるのは、東京五輪が本当に開催されるのかという不安だ。アメリカ大手メディアのネガティブな論調が、その不安に追い打ちをかける。「そういう情報には極力触れないようにしていました。噂レベルの話には意味がない。中止というオフィシャルな発表があるまでは、競技に100%コミットすべきだと考えました」とウィリアムズ。

 ナギオットもこう言う。

「開催されるという前提のもと、日々の練習に全力を注ぐ、というのが私のアプローチでした。延期が決まっても『じゃあ、来年に向けてがんばろう』と。五輪出場だけが私のゴールではありません。自分なら世界新記録を出せると信じ、その目標に向かってやってきました。だからたとえ東京が中止になったとしても、私はモチベーションを持ち続けられます」

 ナギオットは、昨年12月にコロナ感染を経験。身体は2、3週間で回復したものの、メンタルへの影響が長く続いた。

「頭にもやがかかったようで、心と身体がちぐはぐな状態になりました。棒高跳びは全力で助走した後、一瞬の判断で踏み切って跳ぶというスポーツ。タイミングの見極めはほんの一瞬です。それが合わなくなり、精神的にかなり追い込まれました。また最高の跳躍ができる日が来るのか分からなくなり、涙した夜も何度もあります。でも、コーチは辛抱強く私を支えてくれました。1カ月前までは100%戻っていませんでしたが、今はこの通り元気です」

「五輪の素晴らしい思い出を胸に、また東京へ訪れたい」

新国立競技場の舞台で、アメリカの選手たちはどんなパフォーマンスを見せるか 【写真:つのだよしお/アフロ】

 コロナ禍という大きな試練を経てもなお、力強く復活し、選考会を戦い抜いた選手たち。いよいよ目前に迫った五輪に向け、調整段階に入ったと言っていいだろう。日本到着後はコロナ対策による数々の制限が待ち受けている。

「私たちは自分の力を発揮するために競技をやっています。でも、オリンピアンを目指す動機の一部には、東京のようにクールな都市でカルチャーを体験し人々と出会いたい、ということもある。今回そういう機会が全て奪われてしまい、ちょっとがっかりしています」と、ウィリアムズは肩を落とした。

 ナギオットは大会後、家族と観光するのを楽しみにしていたという。

「残念ではありますが、コロナはスポーツよりもっと大きな話。今回の措置の理由も理解しています。それでも東京に行けるのはありがたいことですし、日本の方々に安心してもらうために協力したい。今はまだ東京観光は無理だけど、五輪の素晴らしい思い出を胸に、今後また訪れてやりたかったことを体験し尽くそうと思います」

 五輪開催地になるベネフィットの1つとして、レガシーという言葉がよく使われる。もし、最悪のシナリオを回避して東京五輪を無事閉幕させることができたなら、ナギオットの言うような東京再訪観光という形のレガシーを残すことができるかもしれない。

 日本国内の情勢は不透明な中、今月末にアメリカ選手団は日本に上陸する。そして今回も多くのメダルをかっさらっていくだろう。アメリカの陸上界を支え続けてきたグロートウォルドは、自国の選手たちの活躍を信じて疑わない。

「2021年のアメリカの勢いは、五輪期間も衰えることはないでしょう」

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