内村航平、薄氷の代表となった2つの背景 ミスが許されないスペシャリストの厳しさ

平野貴也

内村の独走を阻んだ新エース・橋本

体操ニッポンのエースとして五輪に挑む橋本。個人総合だけでなく、鉄棒でもメダルを狙える実力を示した 【写真:アフロスポーツ(代表撮影)】

 もう1つの背景は、団体枠の代表となった日本の新たなエース、橋本の台頭だ。前述の世界ランキングは、選考会終了時点で完成するもので、団体枠で日本代表に選出される4名の得点もランキングの対象となる仕組み。選考会最終日、橋本は離れ技を連続で行う構成で15.133点を取り、世界ランク1位の基準を15.000点から引き上げた。最終日の内村の15.100点は、試合前なら世界ランク1位で30ポイントだが、橋本が引き上げた点に及ばず、ランク2位の20ポイント。米倉と並んだが、超えられなかった。

 そして、内村が選考会3回目のNHK杯でマークした15.333点は、最終日の橋本の15.133点からジャスト0.2点上。橋本があと0.001点獲得していれば、この大会の点数が40ポイントではなく30ポイントの計算になり、内村は敗退となるところだった。

 今回の種目別選手権で、橋本は内村を破って優勝した。今の日本には、スペシャリストだけでなく、以前の内村同様に個人総合を戦うオールラウンダーの中にも、鉄棒で世界のトップを狙える選手がいる。その背景が、内村の独走を阻んでいた。

内村の代表入りは団体メンバーにも好影響が期待

五輪2連覇を達成した内村の存在について、水鳥強化部長は団体でのサポートにも期待感を表した 【写真:アフロスポーツ(代表撮影)】

 ギリギリだった。しかし、内村は4度目の五輪切符をつかんだ。世界のトップで戦う力も十分に持っている。東京五輪で期待されるのは、“ステイゴールド”。3大会連続の金メダル獲得だ。

「嬉しいよりも(代表に)なっていいんだろうかという方が大きい」と話した内村だが「すごく、かなり、前向きに捉えると、五輪までに、完ぺきな演技を出すための最後の試練。ここで完璧が出てしまうと、五輪までに超えるのが難しくなってきたんじゃないかと、冷静に考えると思う。ミスが多少あった方が、より強い気持ちで練習していけるのかなと思う」と前を向いた。

 選考会最終日は、2日連続で体力的にきつかった部分もあったというが、五輪本番ではスケジュールに余裕がある。改善は、十分に可能だ。後輩たちの健闘で追い込まれた内村は、油断なく演技を磨いて大舞台に挑める。

 また、内村の代表入りは、初出場組4人となった団体総合を戦うチームにも好影響が期待できる。水鳥寿思男子強化部長は、団体戦のサポート面でも期待をかけた。

「団体チームの誰も五輪を経験していない。彼(内村)はチーム(メンバー)ではないにしろ、一つの声掛けが安心感を与える。チームにはいなくても、チームの中心として活躍してくれると思っていて、メンバーと変わらない期待というか、個人枠も含めたチームとして彼中心に頑張っていきたい」

 今もなお日本をけん引する内村と、台頭著しい若手が刺激し合う相乗効果で、体操ニッポンは東京五輪で複数の金メダルを狙う。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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