藤田が重要 上野の負担を減らせるか ソフトボール元日本代表が代表選考を解説
“頑張る力”のシンボルに
宇津木麗華監督が「4番」を明言する山本。他国に左の好投手が多いだけに、山本の打棒に期待が高まる 【写真は共同】
アボット以外に、(キャット・)オスターマンという左ピッチャーがいます。北京五輪ではオスターマンが先発し、アボットにつなぎました。その2枚を打ち崩さないと金メダルはないと思います。打てなかったとき、例えばヒットエンドランで足を絡めるなど、日本のソフトボールらしい機動力を使っていけるかもカギになりそうです。
――アボット、オスターマンともに左投手です。打線で鍵を握るポイントは?
今回のメンバーには右バッターが8人いて、左は4人です。北京五輪では左が7人、右が4人だったので、真逆になっていますね。過去のオリンピックを振り返っても、これほど右バッターが選ばれることはなかったと思います。オーストラリアなどアメリカ以外の国にも左ピッチャーが必ずいるので、そこに対応するためだと考えられます。
――左対左の難しさは野球でも言われます。ソフトボールでは野球と比べて打者にとって対応できる時間が少ない分、それだけ右打者のほうが活路を開きやすいのですか。
左ピッチャーが右バッターに対して投げづらそうな場面をよく目にします。デッドボールも多いんですよね。左ピッチャーのボールの軌道的に、右バッターのアウトコースを狙ったボールが中に入ってくることがよくあります。右バッターのインコースを狙うのが苦手な左ピッチャーは多く、それを山本(優)がいつも打っています。
――宇津木監督は会見で、山本選手の4番を明言しました。
山本が打線の軸になると思います。山本は構えからトップを作って打ち出すまでに、軸も目線もブレないことが特徴です。あの飛距離はすごいですし、アメリカの主軸並みの信頼感がありますね。たとえチームがリードされていても、山本の打力があるから取り返せるだろうと思えるほど頼りになる選手です。ただし、各国は必ず山本対策をしてくると思うので、いかに他の選手が対応できるかも重要です。
――アメリカのアボット投手が日本代表の「怖い選手」として森さやか選手を挙げたと、宇津木監督が会見で話していました。
森もポイントの選手です。守備には就かないでしょうが、打撃だけでオリンピックメンバーに入るのは史上初だと思います。それくらい、アボットに対して勝負強い。アボットを打てるということは、他の国の左ピッチャーにも対応できる力があると思います。しかも、森は勝負強い。1点ほしい場面で代打で出たり、DP(※)で出る試合もあると思います。
※注:DPは「Designated Player」の略で、「指名選手」と訳される。守備をせずに打撃だけ出場する選手のことで、代わりにFP=Flex Playerと呼ばれる選手が守備に就く。FPは投手の場合が多いが、野手の場合もある。
――最後に、今回のチームに期待したいことを教えてください。
北京五輪を最後にソフトボールは競技から外れ、宇津木妙子(元日本代表監督)さんを中心に『バック・ソフトボール』という合言葉を掲げ、オリンピック競技に戻そうという活動を続けてきました。やっと東京五輪で復活しましたが、次のオリンピックでは行われません。今はコロナ禍もあり、スポーツの価値が試されている時期だと思います。日本代表に選ばれた15人の戦いぶりが勇気や感動を与えて、“頑張る力”のシンボルになればいいなと思います。このメンバーはみんな、気持ちがすごく強くて、『日本のために』と思う選手が多いので、金メダルに向けてやってくれると期待しています。
増淵まり子(ますぶち・まりこ)
【写真:本人提供】