湘南ベルマーレが導入「トークン」とは? コロナ禍のクラブを救う新たな取り組み

池田タツ

クラウドファウンディングとはどう違う?

「ファントークン」によって、収益面、ファンの体験価値の向上、新しいファン層の獲得が見込めると、田中社長は語る 【スポーツナビ】

――昨年湘南ベルマーレの「クラウドファンディング」は8000万円以上も集まり、大きな話題となりました。「クラウドファンディング」と「トークン」の違いを分かりやすく教えていただけますか。

田中 「クラウドファンディング」はいくつか種類が分かれていて、購入、投資、寄付などがあります。湘南ベルマーレでやられていたクラウドファンディングは物がもらえるもの(購入型)でしたよね。一方、「トークン」だと、物理的な物を販売しているわけではないですが、その代わりにいろいろな体験が得られる権利があります。また保有しているトークンを利用してクラブの企画や演出の決定に参加できるので、単発の買いきりで終わるものではなく、継続した関係になっていくことが最大の違いですね。

「トークン」を追加で販売することも可能で、トータルで4000万トークン発行できます。体験なので物を送ったりする発送コストなどもかかりません。アンケート投票や特典の応募が基本になるので、購入者の人数が10倍になったからといって、クラブ側の運営工数が10倍になるわけではないですね。

水谷 「トークン」と「クラウドファンディング」はまったく別物だと思っています。「クラウドファンディング」はクラブとして「助けてください」という明確な意図がありました。一方、今回の取り組みは続いていくものです。その分、クラブも価値を生み出し続けなければいけないので大変な部分もあります。サポーターの方々から「今年のクラウドファンディングはいつですか?」と何度か聞いていただくのですが、あくまでクラウドファンディングは単発で実施すべきもので、何度もやるものではないと思っています。

――「ファントークン」を導入するクラブ側のメリットを教えてください。

水谷 湘南ベルマーレの場合はクラブのメリットとサポーターのメリットが一緒になることをしていきたい。それがこのクラブとしての在り方です。今のところクラブとサポーターの新しいつながりが創出できていると感じていて、「トークン」という形でコミュニケーションがより能動的な形になっています。

 長らくスポーツの4大収入である広告収入、チケット収入、グッズ収入、放送権収入の4つから、いかに変わっていくかはスポーツ界全体が考えていることです。それはコロナ期間により、さらに考えさせられています。「トークン」をサポーターがうれしいと思えるものにできれば、クラブにとっても新しい収入の創出になっていきます。これはどのクラブもずっと探しているものでしょう。

田中 「トークン」ができる課題解決は3つあると思っています。ひとつは収益面、ふたつ目は既存のファンの体験価値の向上、そして3つ目が新しいファン層を広げていくこと。最初のふたつは水谷さんがおっしゃったことですが、3つ目はトークン価値が上がると期待して買ってくれる方が対象です。

「トークン」を持つと、会社の株を持つ感覚と同じで、日々スポーツクラブの動向が気になり始めたりもします。また自分が持っている権利があるなら、せっかくだから特典に応募してみようという気持ちが生まれ、クラブとつながりができて、スタジアムに足を運んでみたり。そういうファン層の拡大に広がると理想だと思っています。

体験をサポーターと一緒に作っていけるのが楽しみ

特典となる体験は、クラブとサポーターが一緒に共有しながら作っていく。それが湘南バルマーレのやり方だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――これはサッカーだけでなく他のスポーツクラブでも応用が効きそうですよね。

田中 「トークン」の仕組みは持っている人にメリットがある “インセンティブ革命”だと思います。今までは消費だったものが、「トークン」を持って応援することで自分自身にとってもメリットが生まれる仕組みで、ビットコインやイーサリアムコミュニティの中でも使われているインセンティブの仕組みです。こういう仕組みがスポーツ領域でも受け入れられ、投資家だけでなく、一般ファン層にも受け入れられるといいなと。すでに湘南ベルマーレで発表した時点で多くの問い合わせをいただいています。

水谷 「トークン」を使ってやりたい企画があるんです。20年以上前にイングランドのウェンブリースタジアムのスタジアムツアーに行ったんですね。15人くらいのツアーで、ロッカールームで試合前の準備をするんですよ。ロッカールームに座るといきなり電気が消えて。パッと電気がついたら、そこに本物の監督が立っているんです。その監督が真面目に「今日の試合はこうやるぞ」って説明して、最後は「よし、行くぞ!!」と大声を張り上げ、手をたたいてロッカールームを出ていくんです。

 最後にFAカップ優勝の音楽がかかり、レプリカのトロフィーがもらえるスタジアムツアーでした。あれは面白かったので、ベルマーレでもやりたいですね。うちもルヴァンカップ優勝のトロフィーがありますから、やっていいですよね。

田中 コロナ禍が明けたら、いろんな体験イベントができると思います。

水谷 ドイツでは試合前の記念写真に入れる権利みたいなのもありましたね。そういう体験をサポーターと一緒に作っていけることが最大の楽しみです。「たのしめてるか。」をサポーターと一緒に共有しながら作っていくことが、このクラブのやり方。将来的にはベルマーレワンダーランドや夏祭りの企画も考えてもらいたいですね。

田中 将来、トークン保持者に協賛企業や地域の方々が特典を提供するというのもあり得ます。例えば地域のラーメン店が、ベルマーレのトークン保持者の方には替え玉無料サービスとか。そうやって応援するサポーター同士がつながっていき、保有しているトークン価値を挙げていく可能性も秘めています。
水谷尚人(みずたに・なおひと)
1966年生まれ、早稲田大学卒。 リクルートを経て、日本サッカー協会で働く。 2002年ワールドカップ日本組織委員会への出向終了後、日本サッカー協会を退職し、SEA設立、湘南ベルマーレ強化部長就任。04年SEA Global設立。10年から12年まで湘南ベルマーレ取締役を務め、13年には湘南ベルマーレスポーツクラブ理事長に就任。15年に湘南ベルマーレ代表取締役社長に就任した。共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレフロントの戦い』など。

田中隆一(たなか・りゅういち)
1977年生まれ、静岡県静岡市出身。慶應義塾大卒業後、コンサルティング会社を経て2002年にDeNAに入社。広告企画やソリュー ション事業など新規事業の立ち上げを経験。05年ノッキングオンに参画。モバイルアフィリエイト事業の立ち上げ、位置情報を利用したソーシャルゲームの企画・運営を経て、08年から代表取締役を務めた。10年8月に株式会社Zynga Japanにおいて独自ゲームプラットフォームを企画。12年12月にUnicon Pte. Ltd.を創業。gumi Cryptosアドバイザー。19年1月にドリームシェアリングサービスFiNANCiEを運営する株式会社フィナンシェを共同創業者。

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著者プロフィール

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。

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