連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

全仏準V・大谷桃子が猛追する憧憬の背中 車いすテニス界に輝く日本人スターの系譜

C-NAPS編集部

世界ランク1位からの金星

全仏オープンの準決勝では世界ランキング1位のデフロート(写真右)を撃破。全米オープン初戦敗戦の経験が金星につながった 【写真は共同】

 パラリンピックで注目の海外勢は、世界ランキング1位のディーデ・デフロート選手(オランダ)ですね。健常者と変わらないようなスピードのショットを打ってくるので脅威です。どんなにコースを突いて走らせても、一発で打ち返されてしまう怖さがありますね。私よりも年下なんですけど、鼻が高くて金髪で可愛いのでぜひ注目してみてください。

 全仏オープンの準決勝ではデフロート選手に勝利できたんですが、改めて彼女のショットの速さに驚かされましたね。「これは誰も取れないよ、無理でしょ」って笑ってしまうくらいで、試合中に憧れの念も抱いたくらいですね(笑)。こちらがマッチポイントでも逆転される不安は拭えませんでした。コーチとは「リターンエースを狙っていこう」と話して試合に臨んだので、しっかりコースを狙ってレシーブできたことが勝利につながったと思っています。

 デフロート選手に勝てたのも、グランドスラム初出場となった9月の全米オープンでの経験が生きましたね。国枝選手と上地選手に続く日本人選手3人目として出場が決まった時はすごく嬉しかったですし、「小さい頃から憧れていたグランドスラムに出場できるなんてヤバい!」と思いました(笑)。でも1回戦で敗退して、世界の壁の高さを痛感させられましたね。

 私だけすぐに敗退してあっという間に大会を終えたことがすごく悔しくて、「出るだけで満足していてはダメ」と思うようになりました。「目指すべきはもっと上」と気が引き締まりましたし、「1勝」の大切さを意識できるようになったことが全仏オープンの結果につながったんだと思います。

 私がこうして世界を意識して戦えるのは、国枝選手と上地選手の存在も大きいですね。2人のおかげでツアーの回り方や練習方法などを身近で学べました。「あの選手になりたい」と思えるトップ選手が同じ国にいることはすごく重要です。私も上地選手に憧れてこの道を選びましたし、他の若い選手たちのきっかけやモチベーションになっていますね。

活躍して子どもたちの憧れの存在に

オンライン取材で笑顔を見せる大谷。自身が子どもたちの憧れになるためにも、パラリンピック出場を果たしたい 【写真は共同】

 東京パラリンピックは1年延期になりましたが、その間にグランドスラムに2大会も出場できて貴重な経験を積めました。それにこの期間に右手首の手術ができたのも大きいですね。切れていたじん帯を固定するためにボルトをずっと入れていて、本来ならパラリンピック後の10月に抜く予定だったんですよ。でも年明けからすでにボルトの痛みが強くなっていて。パラリンピック延期の一報を聞いて、すぐに手術を決断して5月にボルトを抜きました。今はほとんど痛みなくテニスができているので、私にとって延期は追い風となったかもしれません。

 東京パラリンピックの内定は2021年6月の世界ランキングで決まります。それまでに1月の全豪オープンなど大きな舞台でしっかり結果を出して、本番につなげられたらと思っています。そのためにも、練習環境の整備や改善を望んでいます。普段は練習拠点として佐賀市の市営コートを借りていますが、休館日があったり、抽選に外れる日が多かったりすると大会前に追い込みの練習ができないんですよね。また、ハードコートは、雨の日には使えません。練習できるかどうかは、技術面だけでなく精神面にも大きな影響を与えます。早く屋根付きのハードコートが佐賀にもできればいいなと思っています。

 でも佐賀の皆さんは本当に温かくて、いつもたくさんの方に声をかけていただいています。みなさんの応援にしっかりと結果で応えたいですね。また、障がいを持つ子どもたちが車いすテニスを始めるきっかけに、私自身がなれればと思っています。佐賀で車いすテニスをしている子どもを見かけることはほとんどないので、少し寂しいですね。プロ野球選手に憧れて野球を始めるように、私が活躍することで「自分も大谷選手のようになりたい」と思ってもらえるように頑張りたいです。

(取材・執筆:久下真以子)

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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