新谷仁美は「アスリートの価値」を示した 恐怖に打ち勝ち、世界のトップと戦う

平野貴也

「東京五輪だからこうしようという思いは……」

「東京五輪だからこうしようという思いは一切ない」と、冷静に意気込みを語った 【提供:日本陸上競技連盟】

 引退から復帰後、ランナーとしての活動を職業と捉えていることを強調している新谷は、飾ることなく現実を語る。夢舞台のはずである東京五輪についても「特別な気持ちは、私にはなくて、やはり仕事の一つ。東京五輪、世界選手権、記録会は、その中に含まれている。東京五輪だからこうしようという思いは一切ありません」と言い切ってしまう。五輪に向けた練習メニューを聞かれれば「やりたい練習はないけど、やらないといけない練習はある」と言い、暑熱対策を聞かれても「極寒でも猛暑でも結果を出すだけ」と取り合わない。ギラギラした熱意が言葉を鋭くするが、そのプレッシャーを自ら受けてレース前に恐怖で泣くこともあるという。挑戦の過程から、すでに刺激が漏れ伝わってくる。

 その新谷は、自国開催の五輪に向けて、アスリートとして、人間として、考え方や行動を高めていきたいと言い「国民の皆様に、私たち(アスリート)の在り方というものを、東京五輪で見たいとどう思わせていくかが大事。そして、東京五輪だけでなく、それ以降、アスリートの輝く瞬間を見たいと思わせることがポイントになっていきますので、そういう部分を上げていけたらと思います」と話した。東京五輪に囚(とら)われ過ぎず、最も重要なポイントを鋭く指摘するコメントだった。東京五輪という大きな接点に頼らず、自身が臨むべきレースで、結果以上のものが伝わるパフォーマンスを見せる、アスリートの価値を示す――その覚悟が、多くの言葉と、脅威的な日本新記録の走りに詰まっていた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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