五輪開催諦めない 心打つ内村航平の言葉 「できない」でなく「やる」方法の模索を

平野貴也

大会は無事終了も……コロナ対応に課題

コロナ対策として、選手は会場入場時に検温や消毒などを行った 【Photo by AFLO SPORT】

 この大会の収穫は、競技会の素晴らしさを再確認できたことであり、コロナ禍であっても東京で有観客の国際大会が開催できたという実績を作ったことだ。19年世界選手権で男子個人総合を制したニキータ・ナゴルニー(ロシア)は「今日の大会を通して、五輪もコロナ禍でも安全に行うことができることを世界に見せたい」と東京五輪の開催につながることを願っていた。

 ただし、コロナ対策は簡単ではないということも明らかになった。大会1週間前の10月29日に内村がPCR検査で陽性判定を受けたが、その後に3カ所で行われた再検査では陰性となり、偽陽性だったことが判明。内村の出場が危ぶまれ、内村が合宿していた味の素ナショナルトレーニングセンターの体操練習場も一時閉鎖となる騒動があった。感染者判明の場合の対処法は、多くの想定が必要だ。参加する国や選手数、運営人員が増えれば、リスクも増える。今大会で約2000人に限定した観客数についても、同じことが言える。

 また、パフォーマンスを発揮するための最高の準備とコロナ対策の両立も容易ではない。選手は、この大会の前に2週間以上にわたる隔離生活を行いながら検査を繰り返した。19年世界選手権で男子個人総合の銀メダリストであるアルトゥール・ダラロヤン(ロシア)は「ホテルから外に出られず、プールやジムも使えなかった。動けないのはスポーツマンにとって一番困ること。散歩やジョギングは、精神的にも、身体の動きを維持するためにも大事。しかし、その対策が、私たちをコロナウイルスから守るためのものだと理解しています」と通常の大会にはないストレスと戦う必要があったことを認めた。五輪の場合は、大会運営の規模も大きくなるため、隔離生活の対応が改善される可能性があるが、選手だけでなく、選手と接する指導陣らも隔離生活を必要とされるため、やはり大人数の難しさは付いて回る。

制約乗り越え、気概示した選手たち

大会を無事終えた選手ら。コロナ対策による制約を乗り越え、高いパフォーマンスを示す気概を見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 困難に目を向ければ、やはり新型コロナウイルスは脅威であり、厄介だ。しかし、内村のスピーチにあったように、皆が大会を望めば、困難の先にたどり着ける可能性はある。昨年の世界選手権で女子個人総合の銅メダルを獲得しているアンジェリーナ・メルニコワ(ロシア)は、外出禁止によるストレスを感じたことを明かしたが「日本や世界で、五輪を成立させるために、関係者がどれだけ粘り強く戦っているかをよく見ています。五輪は開催できると思っていますし、そのためには全力で、可能な限りの対策を取る必要があります。毎日のPCR検査で鼻が痛かったり、気持ち悪かったりするなど、ある程度の不便は感じていますが、絶対に必要なものと理解しています。大会の運営組織は素晴らしかったので、今のペースで安全対策を続ければ、五輪本番ではもっと状況が良くなっているのではないかと思います」とコロナ対策を施す大会運営に協力の意思を示すとともに、改善に期待をかけた。

 寺本明日香(ミキハウス)は、閉会セレモニーでホスト国のアスリートとして「ロシア、米国、中国の各選手も約20日間の隔離状態での練習や毎日のPCR検査などに協力してくれて、大会の成功に導いてくれたことは良かったと思います。無事に家まで帰れることを祈っています。そして来場者の皆さんも、コロナ禍でも応援して下さり、ありがとうございます。声援がなくて拍手だけだったけど、それでも皆さんの温かい応援が私たちにはしみました。この大会を通じて(他の大会開催につながり)来年の五輪などで皆さんに夢や勇気や元気を届けられたらいいなと思います」とあいさつした。

 選手には、コロナ対策の制限を乗り越えて、高いパフォーマンスを示すという気概がある。ファンや国民は、他人事の客観的な感覚ではなく、主体性を持ったときにどう思うのか。内村がスピーチで訴えたメッセージが突き刺さる。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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