連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

杉谷泰造が7度目に期する五輪のメダル 障害馬術で人馬一体となる「2つの鼓動」

C-NAPS編集部

パートナーのヒロインと「2つの心臓」で臨む試合

5〜6年ともに過ごしている杉谷とヒロインは、夫婦のような恋人のような存在。互いを信じ、わかり合うことが重要になる 【写真は共同】

 現在の僕の一番のパートナーは「ヒロイン」という名前の13歳の女の子です。もう5〜6年は乗っていますね。今はすごく調子が良いのですが、人間でいう意見の違いもあり、ここまで仕上がるまでには波がありました。でも今では、ヒロインとは夫婦のような、恋人のような関係性です。

 たまに喧嘩(けんか)をしますし、わがままなところもありますが、自分を信頼してくれたらめちゃくちゃ強い。まさに馬を“惚れさせる”ことが重要なんです。困った時に頼りになるし助けてくれるので、僕は牝馬(ひんば)の方が好きです。牡馬(ぼば)は力強いのが魅力ですが、ムラがあります。女性から見た男性と一緒だと思いますよ。ここぞというところで弱くて、女性に怒られるパターンです(笑)。

 僕たちは「人馬2つの心臓」で試合を戦っています。予選は冷静でも、決勝になると人馬ともに緊張で大変なことになります。「決勝にきた!」というのは、会場の雰囲気の違いから馬も絶対にわかっていると思います。馬は口ではなく鼻で呼吸をするので、緊張が高まると鼻の穴が大きくなりますからね。実際に競技場に行くと、人間と馬の表情、馬の鼻息や走っている時の爪の音などテレビではわからない部分も見聞きできるので、より楽しめるはずです。

「4年に1回のテスト」である五輪で次こそはメダル獲得を

日本人最多となる6大会連続での五輪出場を成し遂げている杉谷だけに、自国開催での五輪では是が非でもメダルを獲得したい 【Getty Images】

 五輪の際に注目の国は、ドイツ、オランダ、フランス、アメリカなどの欧米勢ですね。強豪国に共通しているのは乗馬人口が多いこと。僕が滞在しているドイツでは人気スポーツの1位はサッカーですが、2位か3位に馬術が入ってくるんですよ。割合としては10人中9人が馬に乗ったことがあるくらいですね。乗馬クラブの数が多く、日本と違って裾野が広い。ヨーロッパでは庭で馬を飼っている家もありますしね。また、古くから競馬用と馬術用の馬の生産が盛んであることも強さの理由です。障害を跳ぶ馬も何百年もかけて作られているので、伝統国の馬をチェックするのもまた面白いかもしれません。

 一方の日本勢にとっては、日本の8月の蒸し暑さを把握していることが大きなアドバンテージになります。僕自身、五輪会場の馬事公苑は全日本ジュニア選手権で初めて優勝した思い出の場所です。馬術の試合は日本で開催されることもありますが、時期は8月ではありません。海外選手は日本の暑さを想像できないようで、よく質問されます。そのたびに「スチームサウナの中で馬に乗っているのと一緒や」と答えていますね(笑)。

 僕にとって五輪は最高峰の大会であり、4年に1回のテストとも位置付けています。前回のリオ五輪まで6大会連続で出場しているので、「今、この辺にいてるんやな」という自分の立ち位置もわかるようになりました。経験も積んでいますし、フィジカルも昔より良くなっているので成績を出したいという思いが強くなっています。五輪の出場を重ねるごとにハードルは高くなっているので、人馬ともに100%、いや150%の最高のコンディションでないと出たくないという気持ちもあります。

 東京五輪はただ出るだけでは絶対にダメです。出場するからには結果を出さなければいけないと思っています。人生に一度あるかないかの自国開催の五輪です。1964年の東京五輪で日本チームは良い成績を残せなかったので、当時よりは上に行かなければいけないと思っています。周りの人たちからは「五輪の出場数は多いけど、成績が出てへんやないか!」と言われていますので、やはり、次はメダルを獲得したいです。

(取材・執筆:上田まりえ)

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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