3枚替えは珍しくない!? ルール変更で上がったJの「娯楽性」
「奥の手」や「新参者の台頭」も
再開後から無敗で駆け抜けたV・ファーレン長崎。手倉森誠監督は采配的中の連続だ 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】
再開後から無敗で駆け抜けた9節までの8試合は采配的中の連続。試合ごとに顔ぶれの違う交代選手がことごとく点に絡んだ。切り札のビクトル・イバルボもその1人。この巨漢をボックス内でポスト役に使い、その懐にボールを集めて、複数の価値あるゴールをたぐり寄せた。手駒の生かし方を心得る手倉森誠監督らしい妙案だった。
また、交代枠の拡大で「奥の手」を使いやすくなったことも、土壇場でドラマの筋書きが変わる面白さを演出している。4枚目、5枚目のカードで最後の手段に乗り出すのがJ2のアビスパ福岡だ。192cmの三國ケネディエブスを最前線に送り込んだパワープレーである。実際、8節の愛媛戦では三國自身が値千金の同点ヘッド、続く10節のヴァンフォーレ甲府戦では三國が空中戦に競り勝ち、遠野大弥の同点ゴールを呼び込んだ。
本来、三國はセンターバックだが、長谷部茂利監督はその高さを買い、攻め駒に使ったわけである。ちなみに、松本山雅(J2)も劣勢時の最終盤に長身センターバックの服部康平を同様の目的で使うケースが多い。二の手、三の矢で打ち止めだった従来の交代制と比べ、ベンチの選択肢が確実に広がり、打つ手も多様になっている。
選択肢の広がりはまた、新参者の台頭や覚醒を促す呼び水ともなった。若いタレント群が続々と出場機会を得て、特大のダイナミズムをJリーグにもたらしている。先に触れた三笘や旗手ら東京五輪世代の注目株はもちろん、横浜FC(J1)で先鋒役をこなす斉藤光毅や、東京ヴェルディ(J2)で不動のピボットとなった藤田譲瑠チマら、10代の逸材たちも新風を吹き込んでいる。
特別ルールがもたらした効果は大きい
勝負どころの時間帯で訪れる後半の飲水タイム。そこでベンチ脇に集まった選手たちに戦術面の修正やプランの変更が行われ試合をよりいっそう面白くさせている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
14節終了時点で総得点は20。上から5番目の数だ。また、総シュート数、枠内シュート数、CKの数はいずれも1位(12節終了時点)となっている。水戸に集った若者たちが毎試合のように見せ場をつくってきたことの証だろう。
前へ、前へ――というアグレッシブな戦い方には大きなリスクが伴い、失点がかさむ可能性が高まる。そのため戦績こそ安定しないが、最後の瞬間まで敵のゴールに矢印を向ける全力ファイトには格別の爽快感がある。2-2で引き分けた8節の甲府戦、3-2と逆転勝利した9節のツエーゲン金沢戦がそうだ。いずれも後半のアディショナルタイムに値千金のゴールが生まれている。試合後、力を出し切った選手たちが倒れ込む光景はいまや定番と言ってもいい。
いや、水戸の試合に限らず、最後まで先の読めない展開が実に多い。前半の半ば、後半の半ばにそれぞれ設けられた飲水タイムがその流れに拍車をかけた格好か。とりわけ、残り20分前後に訪れる後半の飲水タイムなどは、まさしく勝負どころの時間帯。そこでベンチ脇に集まった選手たちに戦術面の修正やプランの変更を落とし込めるわけだ。それが副次的な効果となって、ゲーム展開をよりいっそう面白いものにしている。
飲水タイムのような細かい変更を含め、再開後の特別ルールがもたらした効果はかくも大きい。もちろん、各チームの手にするメリットには大小ある。ただ、ゲーム自体の魅力や娯楽性が高まることはあっても、薄れることはなさそうだ。そう思えるくらい、いまのJリーグは面白い。
(企画構成:エルゴラッソ 文:北條聡)