連載:Jリーグ・クラシック

「27年前のカズさんのプレーを堪能して」 北澤豪が語る“ヴェルディ黄金時代”

飯尾篤史

カズさんは求められてゴールゲッターに

開幕から27年。「過去を知ることでJリーグの未来が見えることもある」と北澤さん 【スポーツナビ】

――サントリーシリーズは鹿島が優勝し、ヴェルディはなんとか2位。しかし、後期のニコスシリーズに入ると、いよいよ本領を発揮します。

 夏にビスマルクが加入したのが大きかったですね。カズさんとビスマルクのホットラインが形成されたし、ラモスさんの負担も減ったから。ビスマルクは、派手さはないけど、プレーが正確で、ミスが本当に少なかった。中盤は哲さんが底にいて、ビスマルクがトップ下、ラモスさんが左、僕が右。左サイドはラモスさんと左サイドバックとの関係性で崩して、右サイドは僕がビスマルクに預けて飛び出していく。攻撃の循環がすごく良くなった。

――9月に入ると、アメリカW杯アジア最終予選のためにJリーグは約2カ月の中断に入ります。W杯出場権は「ドーハの悲劇」によって残念ながら逃しましたが、代表選手の皆さんは帰国後すぐにJリーグのピッチに立ちました。疲労やショックはなかったんですか?

 なかったですね。ドーハでの経験がJリーグのモチベーションにつながったのは間違いないと思う。ちょっとしたミスが命取りになることを経験して、自分のマインドが変わってきたのも感じたし、次のW杯出場に向けて1秒たりともムダにできないとも思っていたし。ラモスさんは年齢的に次のW杯は難しいから、ラモスさんのためにJリーグのタイトルを、っていう雰囲気もチーム内にあったから。

――実際、リーグ再開後、ヴェルディは7連勝を飾ってステージ優勝に王手をかけ、今回、DAZNのRe-LIVEで放送する浦和レッズ戦に4-0で勝利して優勝を決めました。この試合ではカズさんが、初のハットトリックを達成しました。

 カズさんはもともとウインガー、チャンスメーカーであってゴールゲッターじゃなかった。この年も前半戦は左サイドでドリブルしてることが多くて、そんなにゴールを奪ってない。でも、チームが苦しむ中で点を取る仕事を求められ、ゴールゲッターに変貌していった。ニコスシリーズはまさにそんな時期でしたね。

――それはヴェルディだけじゃなく、日本代表でもそうでしたね。

(ハンス・)オフト監督に求められてね。カズさんって、そうやって求められるものに自分を合わせていける人なんだよね。それも周りが気づかないうちに、いつの間にか変貌している。当時、シュート練習なんかも、だんだん量を増やしていってるんだよね。それに、しっかりコースを狙って9割、10割の確率で決める。さすがだなと思ったね。ゴンちゃん(中山雅史)なんかもカズさんを見習って、それまで力任せに打っていたのを、ちゃんとコースを狙って蹴るようになったから。

ドーハを経てマインドセットが変わった

――優勝を決めた浦和戦の後、松木さんが後期で最も成長した選手として、北澤さんの名前を挙げています。

 松木さんにはずっと守備のことを言われていてね。守備力を高めるために練習でサイドバックをやらされたこともあった。でも、ドーハを経て内面に変化があったというか、マインドセットがまるで変わったから、『そうだよな』って謙虚に受け止められるようになった。それからは、より隙間を埋めるような仕事を率先してやるようになったからね。それプラス、点も狙うというのが自分の個性として確立していったと思うから、この年に得たものはすごく大きいと思いますね。

――このシーズンはチャンピオンシップが年明けに行われました。相手はサントリーシリーズを制した鹿島でしたが、北澤さんは浦和戦後から「鹿島に負ける気がしない」と話しています。

 勢いがあったからね。あと、個人的には鹿島には本田技研時代のチームメートがたくさんいるから、そういう意味でも負けられなかった。こういう巡り合わせになるんだ、ってすごく感じたからね。結果的にヴェルディが優勝するわけだけど、チャンピオンシップではジーコさんの勝負に対する執念に驚かされたね。僕も強く持っている方だけど、世界で戦ってきた人のすごみを感じた。それも勉強になりましたね。

――DAZNの視聴者の中には、当時のJリーグをリアルタイムで見たことのない人も多いと思います。今回のヴェルディ川崎vs.浦和レッズのRe-LIVEでは、どんなところを見てほしいですか?

 27年前のカズさんのプレーを堪能してほしいね(笑)。あと、サッカーというのは常に今が一番だと思うんですよ。ただ、それが何の上に築かれているのか知るのも大事なこと。27年前、Jリーグが開幕した頃はこんなサッカーをしていたんだ、っていうのを知った上で今のJリーグを見たら、もっと面白く感じると思う。歴史の勉強じゃないけれど、サッカーの進化ってトレンドを繰り返しているところもあるし、過去を知ることでJリーグの未来が見えることもあると思うから、楽しみながら何かを感じ取ってほしいですね。
DAZN Re-LIVE J.League Classic Match
1993 2ndステージ第17節 ヴェルディ川崎vs.浦和レッズ 配信中

<今後の配信予定>
4月11日(土)〜 2002 2ndステージ第14節 ジュビロ磐田vs.東京ヴェルディ
4月18日(土)〜 2003 J1 第34節 横浜F・マリノスvs.ジュビロ磐田
4月25日(土)〜 2006 J1 第34節 浦和レッズvs.ガンバ大阪
5月2日(土)〜 2007 J1 第34節 鹿島アントラーズvs.清水エスパルス

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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