コロナウイルスで夏の高校野球はどうなるか 「いつも通り」の甲子園がやってこない?

松倉雄太

感染予防対策はどこまで徹底できるか?

 こうした情報を踏まえ、どんな対策が想定されるかを考えてみたい。センバツで実施する予定だった感染予防対策の中では、

・濃厚接触となる可能性がある密閉空間で多人数が密集する機会をできるだけ避ける
・球場入り口、ベンチやベンチ裏、審判控室などに消毒液を設置。試合終了ごとにベンチやベンチ裏トイレを消毒するほか、ドアノブやエレベーターなども定期的に消毒する
・試合中は円陣を禁止し、マウンドに集まる時などはグラブで口を覆う


 の3つが地方大会でも気になるところだ。

 屋外スポーツの野球は密閉空間こそ少ないが、室内練習場、室内ブルペン、ロッカー、トイレなどが密閉空間に当てはまる。多人数での密集では、ミーティングが当てはまる。試合に関わる重要な話もあるため、換気のために窓を開けることに抵抗があるチームも多いのではないだろうか。さらに試合中の円陣が禁止となると、高校野球ではかなり厳しい条件と言える。

 運営上では、試合間隔をたっぷりとって、ベンチなど球場内各所の消毒が求められる。とはいえ、甲子園も含めて1日4試合行う会場では、試合間隔をとりすぎると最終試合の終了時刻を気にしなくてはならない。試合ごとのベンチなど各所の消毒は、地方によっては球場数も多く、人員確保という点で課題が残る。

高校野球の代名詞とも言える、アルプスの大声援。だが、今年は感染のリスクからこうした応援が禁止される可能性がある 【写真は共同】

 次に観客。2010年夏の宮崎大会では、口蹄疫流行の影響を考慮し、準々決勝まで無観客で行った。仮に今回も無観客での大会実施を検討する場合、地方大会、甲子園本大会のどこまで適用するのか。NPBとJリーグの「対策連絡会議」での専門家による提言には、『応援歌合唱、鳴り物使用の応援スタイルの変更と観客同士のハイタッチなど接触の禁止』も触れられており、指笛の応援やトランペットなどの鳴り物応援、メガホンを打ち鳴らしながらの声援は飛沫(ひまつ)感染のリスクが高いとされている。高校野球界でも、こういった提言は参考にできるだろう。

 ただ、仮に控え部員や保護者だけをスタンドに入場させるにしても、夏の大会で「応援の声を出すな」というのは難しい注文かもしれない。また、ハイタッチはプレーしている選手同士もベンチ内ですることが多いため、このあたりをどうするかも大きな課題だ。飛沫感染、接触感染のリスクと言えば、クロスプレーや打者、捕手、球審が至近距離になるバッターボックス付近も危険ゾーンと言える。グラウンド内にいる大人は、指導者以外にも審判がいることを忘れてはならない。たとえ球児が無症状だったとしても、そこから症状が重くなりやすい大人に感染が広がるリスクもある。

 そして、夏独特の大きな課題と言えば暑さ対策だ。選手権大会の主催者は「暑さ対策はやってもやっても、もっとやらなければいけないと私たちは考えています」と話し、これまでさまざまな対策を講じてきた。地方大会にも助成金を送り、甲子園の本大会の暑さ対策も毎年グレードアップさせてきた。それにもかかわらず、今回においてはマスクの着用など、暑さ対策とは真逆ともいえる対応が求められることになりそうだ。センバツでは出場チームに対して1人1日3枚のマスク配布をする予定だったが、汗をかき、水分を多く摂る夏は、1日3枚で足りるかどうか。また、全ての地方大会でマスクを必要分そろえられるかどうか。難しい地区もあるのではないかと推測できる。

 さらに、一部の地方大会と、甲子園の本大会では宿泊を伴う。春季関東大会は宿泊がネックになることが中止の理由の一つとなった。各選手に個室を用意できる施設と、できない施設がある。これも難しい課題と言えるだろう。

 それに加えて甲子園の本大会では、試合日以外に1日2時間の割り当て練習がある。それ以外にも出場校が練習日や試合日の朝などに独自に会場を抑えて練習するケースがあり、宿舎などで対応できたとしても、リスクを低くするための難題は多く残る。

「開催できるかどうかは……」

 こんな世の中にあって、一寸先は全く分からない。夏へ向けてどこまで練習し、チームを仕上げていけるか。現在ほとんど練習ができない状況にある監督の1人は、春季県大会の中止を受けて「『夏へ向けても状況は少し改善されることはあるかもしれないが、今の状況に少し毛が生えた程度になることは覚悟しよう』と選手には伝えました」と明かした。

 気持ちを切り替え、夏の大会を目標にしている球児たちにはかわいそうではあるが、いつも通りの夏がやってこない可能性も覚悟していく必要がありそうだ。

 センバツ大会中止を取材する過程で、「考えられる対策は全てやるつもり。でも開催できるかどうかは、神のみぞ知る」という関係者の話を聞いた。32校の選手たちが立つはずだった、春の甲子園のグラウンド。夏の選手権大会は全国3957校(19年度における、高野連への全加盟校)が目標にする、一世一代の大舞台だ。春の時点で球児たちの夏の目標を無くさないためにも、何とか知恵を絞りたい。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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