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無良崇人が振り返る今季のフィギュア
「世界選手権が楽しみだったけれど……」

鍵山の4回転トウループは「すごい跳び方」

四大陸選手権でも表彰台に上がるなど、素晴らしい活躍を見せた鍵山
四大陸選手権でも表彰台に上がるなど、素晴らしい活躍を見せた鍵山【写真:松尾/アフロスポーツ】

――次に、世界ジュニアで活躍した鍵山優真、佐藤駿選手については、いかがでしょうか。


 鍵山選手は、四大陸選手権が本当に素晴らしい演技で銅メダルという活躍でした。世界ジュニア選手権のショートは完ぺきで、四大陸選手権の経験が生かされたなと思いました。でもフリーは気負ったのか、かなり緊張した様子でしたね。得意の4回転トウループは、回転軸が外に外れてしまっていました。それでも気持ちの勢いがあれば降りられたかも知れませんが、緊張で身体が動かないという様子でした。


――鍵山選手の4回転トウループは、勢いもあって美しいジャンプですね。


 あれは、実はすごい跳び方なんです。普通は、跳びながら左後方に身体をもっていって回転軸を作ります。でも鍵山選手は、跳びあがる瞬間、左手をかなり後ろに引いておいて、一気にそこへ身体を持って行くんです。よほど体幹が強くないと、あれだけの体重移動はできません。あの回転のかけ方は、4回転フリップやルッツなど他のジャンプに応用できます。


――佐藤選手はいかがでしょうか。ジュニアGPファイナル王者の気負いがあったのでしょうか。


 佐藤選手は、ショートの時からすごい緊張で、力を発揮できませんでした。でも秘めている力はすごくあります。彼のホームである上尾のスケート場で、僕はアイスショーの練習をする機会があるのですが、本当に一生懸命に練習している姿を見かけます。


 佐藤選手は、昔の羽生選手に似ているところがあります。羽生選手は、今でこそ美しくなめらかに跳びますが、ジュニアの頃は、粗くて勢いがあるのが売りでした。そういう気合いが勝ってしまうような部分が似ているので、すごく伸びしろを感じます。


――田中刑事選手、友野一希選手も頑張ったシーズンでした。


 田中選手は、世界選手権に出られなかったのはちょっと残念でしたね。でも2人とも年々成長し、ジャンプの安定感も確実に増しています。他の選手の進化がすごいスピードなので、順位が上がっていない印象かもしれませんが、今や2種類の4回転を跳び、本当に進化しています。表現力という点では、若手には負けていませんし、まだまだ頑張ってもらいたいです。

ロシア勢に対抗するうえでは4回転は「必須」

紀平の4回転について、無良は「世界選手権があれば、かなりの確立で成功していた」と太鼓判
紀平の4回転について、無良は「世界選手権があれば、かなりの確立で成功していた」と太鼓判【写真:松尾/アフロスポーツ】

――それでは女子についても伺いたいと思います。まず紀平梨花選手は、4回転初成功の舞台が来季へと持ち越されました。


 世界選手権があれば、かなりの確立で成功していたと思うので、もったいなかったですね。彼女はトリプルアクセルまでは本当に順調に成長してきました。スピン、ステップもレベルが高く、トリプルアクセルは綺麗なので加点がつく。やはり4回転さえ加われば、ロシアの女子と戦えるのではないかと思います。


――今季はロシアの女子3人(アレクサンドラ・トゥルソワ、アリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコワ)に注目が集まったシーズンでした。


 本当にあの3人の勢いはすごく、彼女たちと勝負するには、4回転を身に付けることは必須になっていくでしょう。今季は3人のインパクトが強すぎたので、紀平選手も頑張っているのに、勢いがないように見えてしまいました。しかし実際にはトリプルアクセルの完成度は高まっているので、4回転サルコウが入れば勢いもついて、ロシアと競っていけると思います。


 男子も同様ですが、単にトリプルアクセルや4回転を跳ぶだけでなく、どれだけ綺麗に跳んで加点をもらうかという勝負になっています。その点では、紀平さんとしてはトリプルアクセル3本をそろえることに集中して、毎試合とも4回転を導入することはできませんでした。来季に期待したいです。


――ロシア3人の中で、それぞれの差は感じますか?


 アレクサンドラ・トゥルソワ選手は4回転がすごいけれど、そのぶんジャンプに頼っている感じはありますね。これから演技や滑りを磨いてくるかどうかが注目です。アンナ・シェルバコワ選手も4回転を跳びますが、この2人はちょっと器械体操のような動きに感じます。2人ともかなりジャンプに高さがあって、生で見たときに「女子がこんな高さで跳んでいるのか、それなら4回転は可能だ」と思いました。イメージ的には、棒高跳びをしているような感じです。滑っていくスピードもすごくあり、跳び上がりながら回転を始めています。彼女達の身体の細さがあってこそ出来る跳び方だとは思います。


 そしてアリョーナ・コストルナヤは4回転を跳びませんが、実際にはトータルのクオリティーは一番高いですね。連続ジャンプの飛距離もあります。いずれにしても3人の力はかなり高いと思います。

4回転を跳ばないコストルナヤだが、トータルのクオリティーは「3人の中で一番高い」と無良
4回転を跳ばないコストルナヤだが、トータルのクオリティーは「3人の中で一番高い」と無良【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

――宮原知子さんはトロントに拠点を移しました。


 リー・バーケルのもとでジャンプを改造しようと考えているのだと思います。ジャンプの技術に長けているコーチとして知られていますし、宮原さんとしても、基礎からやり直している様子です。まだ新しい動きが噛み合うまでに時間がかかるシーズンだったのかなと感じました。表現力としては素晴らしいものを持っていて、今季のショートのエジプト調のプログラムもすごく注目していました。新しいイメージにどんどん挑戦していく努力家の部分にも惹かれますよね。


――坂本花織選手はいかがでしょうか。


 今季は、身体能力と精神的な部分が、ちょっとうまく噛み合わずに苦戦した様子でしたね。でも彼女のパワーのあるジャンプは魅力的ですし、心配はいらないでしょう。3回転トウループをあれだけ大きく跳べる選手なので、いま挑戦している4回転トウループも、跳べる力を持っています。回転をかけようと意識しすぎて回転軸が外れている様子でしたが、コツをつかめば跳べると思います。


――樋口新葉選手には、トリプルアクセルへの期待がかかっていました。


 ぜひ世界選手権で決めてほしかったですね。四大陸選手権の公式練習では綺麗なトリプルアクセルを跳んでいました。今季は、ジュニアから上がった時のようなスピード感やパワーが戻ってきて、樋口選手らしい勢いを感じました。ぱっと見て光り輝いているのが彼女の魅力。トリプルアクセルを決めれば、限界を突破して次のステージに行けると思います。来季でも継続して跳び続ける力があると思うので、引き続き頑張って欲しいです。


――ロシアと日本以外では、韓国のユ・ヨン選手が頭角を現してきました。


 今季は素晴らしいトリプルアクセルを決めましたね。紀平梨花選手と一緒に濱田美栄コーチのチームで練習しています。やはりジャンプの練習というのは、1人でやるよりも、目の前に刺激になる相手がいたほうが頑張れます。ハビエル・フェルナンデスと羽生選手もそういう関係のなかで4回転を磨いていきました。紀平選手とユ選手のトリプルアクセルの跳び方も、だんだん似てきている感じがします。お互い切磋琢磨(せっさたくま)して、良い関係になっていくと思います。


 各選手にとって来季が素晴らしいものになるよう、祈っています。

野口美恵

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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