斎藤佑樹、プロ10年目に臨む決意 あるがままに、そしてがむしゃらに――

石田雄太

失敗を解釈することで大きな進歩

失敗を解釈して前に進むことが斎藤にとって大きなプラスとなった 【花田裕次郎】

――昨年、甲子園までの18年間と、そこから先の12年間の人生は何が違うのかと聞いたことを覚えていますか? 最初の18年は失敗を失敗と思わないで全部忘れて生きてきて、18歳からの12年は失敗を解釈してやってきた、と。「失敗を解釈することはポジティブな話」だし、「失敗を解釈したからこそ分かることがいっぱいあった」と言っていたのを覚えていますか?

 覚えてます。

――それを31歳の今聞いて、どう思いますか?

 まさにそうだと思いますね。怖いものなしでやっていた時の自分はそれはそれですごい良かった。だけど、社会人になって失敗を失敗と思わないでやっている人は、本当にこの人に任せていいのかという怖さがありますよね。でも、本当にリスクヘッジして「こう投げたら失敗する。でも、成功するのはこのタイミングではこのボールしかない」というのを分かっていて投げる選手だったら、使いたくなると思います。個人の成績を出すことを考えたら、もしかしたら怖いものがない方がいいかもしれないですけど、チームビルディングをしていく中で失敗を解釈することはきっと大事なことなんじゃないかなと思います。

 個人的に考えても、怖いものなしでポンといってポンと打たれたら、「あー、打たれちゃった」で終わって、あとにつながらないと思うんですよね。でも、僕は失敗を解釈したことによって、ある試合ではボロボロに打たれたかもしれないけど、次の試合は「絶対に抑えてやる」と戦術的に組み立てられることが多くなりました。野球選手としてはとてもプラスだし、とても大きな進歩だと思いますね。

――でも「失敗を解釈したことによって、怖いものなしでやっていたときの感性がどこまでなくなってしまうのかが心配だ」という話もしていました。そこについてはどのように考えていますか?

 右脳と左脳の話になるんですけど、感性は右脳と言われているので、右脳を使うようにしています。飲み物を選ぶときにも、迷わないで、すぐに「水」って選ぶ。もしかしたら、それが試合の時の咄嗟(とっさ)の判断に生きてくるんじゃないかなと思っています。

 例えばバッターに投げるときにインコースに投げるか、アウトコースに投げるか、正解がないわけじゃないですか。ちゃんとした理屈があれば、そちらを優先します。それがどっちでもありな場合には感性を大事にします。その時のための感性は自分の中で養わないといけないと思っています。

間合いの中で打者を差したい

「球速やキレがなくても、間合いの中で打者を差したい」と理想のストレートについて語る 【写真は共同】

――10年やるのは大変だと言っていましたが、大石(達也/前埼玉西武)選手がプロ生活9年で引退したことに関しては、斎藤選手の中で少なからず影響は大きかったですか?

 やはり、大石と福井(優也/東北楽天)は僕の中でとても大きな存在です。高校の時に自分が本当に一番で、お山の大将だと思っていたのが、大学に行って出会った「こんなすごいやつらがいるんだ!?」という身近な存在だったんです。大石には「あ、こいつには敵わない」と本当に思ったし、「こんなストレートを今、自分が投げられたら最強だ」と思えたくらい、ストレートはすごかった。そんな大石でも9年で野球人生が終わってしまうのは、同じ野球仲間として率直に寂しさはありますね。

――大石選手とは辞めてから何か話しましたか?彼から託された言葉とかありますか?

 託されたことは全然ないですけど。大石は考えているところを人に見せない、いい意味で深く考えない、「なんかフォームってこの辺でピュッと投げればいいんでしょ?」という、まさに遊びの中で野球をやっているタイプでした。でも、その大石が投げ方とかにすごい悩んでいる時期があって、大石でもこうなるんだなというのを目の当たりにした瞬間があって、考えさせられたことはありましたね。

――斎藤佑樹はこの先どういうピッチャーにならなくてはいけないというイメージを持っていますか?

 あまり自分の先のイメージは今はするべきではないと思っています。今はただ、目の前のバッターをがむしゃらに抑えにいくことだけの繰り返しだと思っています。

――そのために必要な練習とは?

 それは単純に、スライダーもフォークもツーシームも、もちろんストレートも、全部のボールの精度を上げておきたいです。キャッチャーから選択肢を出された時に、そのボールを投げられる準備はちゃんとしておかないといけないと思っています。

――今の自分の中ではどんなストレートを投げたいですか?

 ストレートはバッターを差せればいいです。見逃しを取れればそれはそれでうれしいですけど、速くなくてもキレが良くなくても、間合いの中でバッターを差せればそれで十分ですね。今から僕が150キロのボールを投げることは難しいと思います。でも、間を変えるというのは、年を取ってもできることだと思うんです。
 聞き手が長年付き合いのあるライターの石田氏ということもあって、かなりリラックスしていた斎藤。1時間にわたるロングインタビューの中で、「甲子園優勝投手が苦しみながらもなりふり構わず抑える姿はかっこう悪くないんじゃないかなと思っている」という言葉が出てきた。まさに、自分を見つめ、分析し、野球と向き合おうとしている姿が垣間見えた。一方で、「なりふり構わず…」のセリフには秘めた闘志も感じさせた。プロ10年目、日々あらがうことなく、でもマウンドでは炎をともし、打者と対峙する斎藤の右腕に目が離せない1年になりそうだ。(編集部)

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著者プロフィール

1964年、愛知県名古屋市生まれ。名古屋市立菊里高等学校、青山学院大学を経てNHKにディレクターとして入局。『サンデースポーツ』などを担当する。92年、フリーランスとなってTBS『野茂英雄スペシャル』『イチローvs.松井秀喜 夢バトルSP』『誰も知らない松坂大輔』などを手掛け、『NEWS23』では桑田真澄の現役引退をスクープした。またベースボールライターとして『Sports Graphic Number』『週刊ベースボール』に連載コラムを持つ。近著に『平成野球30年の30人』『大谷翔平 野球翔年I』『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡2000-2019』(いずれも文藝春秋)がある

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