日本の“クイックな攻撃”が世界の脅威に 元日本代表・藤井淳がサモア戦を解説

構成:スポーツナビ

モールは多くの選手が入った方が良い?

BKの選手も加わるモールで1トライを奪ったが、本職ではない選手にとっては難しいプレーでもある 【Photo by Yuka SHIGA】

――後半14分のNo.8姫野和樹のトライはラインアウトモールにBKの選手も加わりました。今大会の日本代表では初めてでしたが?

 モールは一度動き出すと止めるのが難しいので、チャンスのエリアで押せていたらBKの選手も入る……というような約束事を決めているのだと思います。姫野選手のトライでは相手の意表を突いたこともあって効果的でした。ただ、今後も大きな武器となるか、と考えると必ず成功させるのは難しいかもしれません。

――モールに多くの選手が入った方が効果的な気がしますが?

 サモアの選手のパワーは特別にすごいので、その難しさもあったかもしれませんが、終盤に4トライ目を狙ったモールはトライに届かず、相手ボールになりました。モールを押しているうちにBKの選手が前に出て、そこをサモアの選手に割られて“面”が崩れてしまったのだと思います。
 きれいに押せているモールに勢いをつける意味ではBKの選手が入る効果がありますが、モールが回転したり、激しい抵抗にあうと本職ではない分、マイナスとなることもあるのです。
 人数をかけたモールで相手にボールを奪われると一気に大ピンチになります。それでもモールに人数をかけるか、BKのパスで崩すか……その時々で正確な判断が求められます。

――ちなみに藤井さんがプレーしていた東芝は、BKもモール練習があったと聞きました。

 最近はやっていませんが、昔はやっていました。きつかったですね(笑)。FW対BKや、SHだけで組むこともありましたから。
 BKの選手も外から見て「モールがこの状況ならここに入る」と頭ではわかっているのですが、やはりFW相手に実際に組む数が増えると、モールのバランスがどうなっているか、どこに入ればモールが動き出すかがわかるようになります。
 東芝では大学卒の新人FWが入ってきても、体格の小さなBKの選手にモールで負けることもありました。そのレベルまで持っていくには体が覚えるまで組む必要がありますね。

スコットランド戦は選手全員で意思統一を

トライの後にSO田村とSH田中史朗が状況を確認する 【Photo by Yuka SHIGA】

――3連勝で決勝トーナメント進出が近づきましたが、スコットランド戦はどう戦うべきでしょうか?

 サモア戦でボーナスポイントを加えた勝ち点5を得たことで、スコットランド戦は負けても決勝トーナメント進出の可能性が出てきました。
 試合展開によってオプションが増えたことはプラスですが、勝ちにいくメンタルの方が日本代表に合っていると思うので、あくまで勝つことを考えて戦った方が良いと思います。

 日本のクイックな連続攻撃はスコットランドにとっても脅威だと思いますから、アイルランド戦のように攻めたいところです。スコットランドもFBスチュアート・ホッグらによるカウンターアタックに切れ味があるので、キックを使う際は簡単に相手に渡すのではなく、競る位置に蹴ったり、外に出してゲームを切ることも大事になります。

 ラグビー界にとってこれまでにないほど注目度が上がっているので、本人たちにその気はなくても、いろいろな声が入ってきます。だからこそ、選手全員で意思統一をして迷わずに戦ってほしいと思います。

(取材・文:安実剛士/スポーツナビ)

藤井淳/JunFujii

東芝ブレイブルーパスで活躍した藤井淳氏。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した 【写真:アフロスポーツ】

 1982年8月10日生まれ。身長170センチ、体重77キロ。愛知県出身。西陵商高‐明治大‐東芝ブレイブルーパス。

 西陵商高時代に全国大会に出場、明治大では抜群のスピードを生かして活躍した。東芝ブレイブルーパスでは強気のリードでFWをまとめ、ディフェンス面も向上。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した。2019年に現役引退。

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