50代でもマラソン自己ベストを出すために vol.5 〜効率よいランニングフォームとは〜

スポーツナビDo

【写真:新澤英典】

前回は練習メニューについて書きましたが、今回はランニングフォームについて書きます。
ただ、ランニングフォームに関しては、文章や画像、動画で伝えようと思っても、伝える側の意図と違う風に伝わることが多く、そのアドバイスがマイナスに働くことも少なくないと感じています。そもそも受け取る側の知識や走力はさまざまで、感覚もさまざまです。そのような不特定多数の読み手に向かってランニングフォームを伝えることは難しいことです。
現在はさまざまな情報を簡単に入手することができますが、その情報は自分にとって必要なことかどうかを見極める能力が求められます。また極端なタイトルや話は目を引きますが、一部の方には効果が大きくても、故障リスクの高いことなどもあります。
パーソナルレッスンであれば、その人に意識してほしい動きを伝えますが、その動きは他の人にとっては意識してはいけないこともあります。

なぜ腕をしっかり引くのか?

今まで多くのランナーにアドバイスをしてきましたが、最も多い改善箇所は肩や腕など上体に力が入る動きです。この力みが原因で脚の動きが阻害されているランナーは少なくありません。
その方々に「なぜそんな風に腕を振るのか?」「どのような意識で腕振りしているか?」と聞くと「肘をしっかり後ろに引くようにしている。」「肩甲骨を寄せるようにしている。」といった答えが返ってきます。では「なぜそのようにしているのか?」と聞くと、「そうすれば脚が出るから。」「速く走れるから。」という方や、「よく分からないけどそうアドバイスを受けたから」と話されます。
「肩甲骨を寄せると脚は出るのですか?速く走れるのですか?」と聞くと、実際どうなのだろうとそこで考えます。大半の方は疑問をもっていないのです。
その方々にレース後や追い込んだ練習後にどこが疲れるかと聞くと、背中や肩の張りが強いと答える方が多く、上体にかなり力が入っていることが分かります。

腕を一生懸命振る、肘をしっかり引くなど意識することで、よい走りになる方もいるでしょうが、そのような意識が上体の力みに繋がる方も少なくありません。特に一生懸命とかしっかりという言葉が付くくらい行うとその傾向は強くなります。
また、気をつけないといけないのは、スピードを上げるためは腕を一生懸命振らねばならないという意識が強いと、上体の力みでスムーズに走れなくなるだけではなく、特に50代のランナーは肩を痛めるリスクが高くなります。

肘をしっかり引く意識が不調の原因になることもある

私は、腕を振ること、肘を引くことが目的ではなく、どのように動かせば肩甲骨が動くのか?の観点でアドバイスしています。
試したら分かりますが、コンパクトに腕を振っても、一生懸命振っても肩甲骨の動きはたいして変わらないし、一生懸命振ろうと力が入ると逆に肩甲骨は動かなくなります。
また、肩甲骨を寄せるようにと言う言葉を使う方も少なくありませんが、その意識・動きをすることで肩や背中に力が入ってしまう方にはオススメしません。

3年前までタイムが伸びていたのに、そこから落ち始めたランナーとパーソナルレッスンをした時に、肘を引く意識が強いので、それはいつから?と聞き、記憶を遡ってもらうと3年前からでした。思い起こすとそれまでは背中が張ることなどなかったのに、それ以降は張りが強くなったとも話しています。肘をしっかり引く意識が上体を力ませて肩甲骨の動きが悪くなったことが原因なのでしょう。

ウルプロ練習風景その1 【写真:新澤英典】

スピードはピッチとストライドで決まる

少し話を変えます。速い、遅いは絶対的なものではなく、相対的なものです。例えばフルマラソン4時間は速いと思う方もいれば、遅いと思う方もいます。キロ5分などペースに関しても速い、遅いは人により異なります。
そのように相対的なものであっても、絶対的なことはスピードやペースはピッチ×ストライドで決まるということです。これは短距離も長距離も一緒です。
ウサイン・ボルトの100m世界記録や、エリウド・キプチョゲのマラソン世界記録を破るには、彼らより速いピッチ、長いストライドで走る必要があります。世界中のトップアスリートが取り組んでいるのはまさにそこです。
トップアスリートも市民ランナーも、その点は同じで、市民ランナーが今までより速く走りたいなら、ピッチを上げるかストライドを伸ばすしかありません。
ただ、どちらかを上げようとして、もう一方が下がったのでは意味がありません。

肘を揺らす程度で力みは消える

例えば、腕振りを一生懸命すれば速いピッチを保てるかもしれませんが、上体に力が入ることで肩甲骨が動かなくなれば骨盤が動かずストライドは小さくなります。
ではどうしたら良いかと言えば、上体に力を入れないようコンパクトに腕を振り肩甲骨が動くようにすれば良いのです。腕を振るとか、肘を引くのではなく、肘を揺らすイメージで腕振りをすると上体の力を抜きやすいのですすめています。
どのような動きをして、どのような効果があるかは実際にアドバイスを受けないと理解しにくいと思いますので、イメージをつかむ程度に読んでください。
肩の力を抜いた状態で腕をダラリと下ろし、肘から曲げて拳が顔の近くにくるようにします。その位置から肩を動かさないよう支点にして、肘を振子のように前後に揺らすだけです。その時に注意することは肘を真後ろに揺らすことです。拳の位置は下げても構わないのですが、90度くらいに保つと腕が疲れる方は胸の前に抱えるくらいでも構いません。また位置が低いと速く揺らすことが出来ずピッチが遅くなります。
今できる方は試せるのでしてみてください。こんなので良いの?というくらい物足りない小さな動きに感じると思います。

ウルプロ練習風景その2 【写真:新澤英典】

効率よく走るために意識していること

効率よく走るために私が意識していることを紹介します。
・お腹を伸ばせば腰は落ちない
・足を上に上げようとしないで下ろす
・勝手に身体が前に進む上体の位置を見つけ保つ
・ピッチは足でなく肘でリズムを取る
それぞれについて説明したいのですが、長くなってしまったので、一つだけ説明します。
腰が落ちてしまうと、重心が下がるだけではなく骨盤の動きも阻害されるので、腰を高い位置に保つ意識を持ち続けてください。
その保ち方は人それぞれ違います。骨盤が前傾気味の方は何も意識しなくても高い位置を保てますが、骨盤が後傾気味の方は意識しないと保てません。私自身が後傾気味なのでいろいろ模索する中で、意識しやすく保ちやすいのがお腹を伸ばす意識でした。お腹を突き出す方もいますが、この意識だと腰が反ってしまい痛めてしまうかもしれません。
このフォームは腹筋を使います。走っていて腹筋が疲れたことはないという方が、このフォームで走ると、前方への推進力を感じることは出来るけど、腹筋が耐えられずに次第に腰が落ちてくるでしょう。それでも意識して走ることで保てる時間を伸ばす努力をしましょう。腹筋は鍛えられてきます。それでもキープできる時間が短いなら腹筋を鍛えてください。漠然と筋トレ・体幹トレーニングをしなくてはと思ってやるより、具体的にこの部位を鍛えたい。鍛えればフォームを保つことができ速く走れると思えばモチベーションは高まります。
また、ランニング歴の長い50代ランナーの多くは数年前と比べたら筋力が落ちているでしょう。筋力が落ちたのに同じフォームで走っていたらタイムが落ちるのは止められません。筋力を鍛えるか、筋力を使わずに身体が進むフォームを身につけるか、もしくは違う伸び代を見つけるか、何かを変えねば自己ベストを出すことは難しい。
まずは自分自身がどのように走っているのか動画撮影してみてください。スマホがあれば簡単に撮影できるので、自分自身のフォームを客観視して、何を変える必要があるのか試行錯誤してください。そのような試みによりタイムが伸びるのがランニングの楽しさでもあります。
短い記事ではなかなか伝えきれませんが、何か一つでも伝われば十分です。50代でもまだまだタイムを伸ばすことはできます。
■著者プロフィール
新澤英典(しんざわひでのり)

ウルトラプロジェクト代表
ランニングポータルサイト ウルトラランナーへの道管理者
健康運動指導士
JSPO公認スポーツプログラマー
JAAF日本陸連公認ジュニアコーチ

損害保険会社25年勤務後早期退職し、その後ランニングクラブ ウルトラプロジェクト(通称 ウルプロ 現在の会員数200人以上)を立ち上げ、自己ベスト更新を目指す市民ランナーの指導をしている。また、ランニングポータルサイト ウルトラランナーへの道を通じて、ランナーへの情報発信を続ける他、複数のスポーツ関連企業でアドバイザーを務めている。

52歳で、5000m、10km、ハーフマラソン、フルマラソンで自己ベスト更新
100kmウルトラマラソン完走25回中 8時間台(サブ9)8回
24時間走214.472km(2017年)
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著者プロフィール

習慣的にスポーツをしている人やスポーツを始めようと思っている20代後半から40代前半のビジネスパーソンをメインターゲットに、スポーツを“気軽に、楽しく、続ける”ためのきっかけづくりとなる、魅力的なコンテンツを提供していきます。

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