変わりゆく今治とデロイトトーマツの関係 KWは「スポンサーアクティベーション」

宇都宮徹壱

ハードルが高いアンケート調査でも驚くべき回答率

第1回調査結果を解説する森松さん。夢スタ来場者3077人のうち、事前登録者が566人で479人から回答を得られた 【宇都宮徹壱】

 スポンサーアクティベーションの定義は「スポーツチーム、大会、選手、協会などの協賛企業が与えられるマーケティング権、プロモーション権などを活用して行う活動」ということになる。今回のデロイトトーマツと今治のケースは、「この調査方法を今治のホームゲームでも応用したい」という岡田代表の期待に、デロイトトーマツが応えるというもの。森松さんいわく「シーズンを通して検証して得られるデータには大きな価値がある」ということで、もちろんデロイトトーマツにもメリットのある話だ。

 具体的な調査方法を見ていこう。調査が実施されたのは、第6節(4月28日)の鈴鹿アンリミテッドFC戦と第15節(7月14日)の奈良クラブ戦。そして第26節(11月3日)の流通経済大学ドラゴンズ龍ケ崎が予定されている。まず、来場者にスマートフォンでQRコードを読み込んでもらい、飛び先で事前登録をすることでアンケート項目が送信される。なぜ、こうした手順を踏むかというと「観戦体験に帰宅後の項目もあるので、会場でアンケートが取れないんです」と森松さん。よって、通常のアンケートよりもハードルが高くなることが予想された。

 ところが結果は、そうした予想を覆すものとなった。第1回の調査では、夢スタでの来場者が3077人、事前登録者が566人、そしてアンケートを戻してきたのが479人。回答者に多少のノベルティがあったとはいえ、驚くべき回答率である。しかも森松さんいわく「自由記述のアンケートもあったんですが、ほとんどの回答者がしっかり書いているんですね。『ここが楽しかった』とか『ここは改善してほしい』とか」。さらに、こう続ける。

「年齢で言えば、最も多かったのが40〜50代。鈴鹿戦は今季のホーム3試合目だったんですが、ほとんどが『3試合全部見ている』人たちでした。属性で見ていくと、一番多かったのがファンクラブの会員で、2番目がファンクラブに入っていない今治ファンや特定選手のファンといったところ。それから今治の試合を初めて見たタイミングでいうと『2017年から』というのが一番多かったですね。つまりJFLに昇格した最初の年に、一気にファンになった人が増えたことが分かります」

単なる胸スポから、より強固でダイナミックな関係へ

回答率の高さを支えた今治のコアサポーター。今後の調査では「どれだけライト層からの回答が得られるか」がカギとなる 【宇都宮徹壱】

 2回の調査を実施して、手応えを感じると同時に課題も明確になった。手応えとしては、やはり回答率が高かったこと。ただし、そのほとんどはコアサポーターであり、逆にライト層からの回答が不十分という課題も浮かび上がる。ちなみに2回目の調査が行われた奈良戦は、大雨だったにもかかわらず2282人もの集客があった。その多くがコアサポだったことは、容易に想像できる。「3回目の調査で、どれだけライト層からの回答が得られるか、われわれもチャレンジしていく必要があります」と森松さんは語る。

 第1回調査完了時点でのレポートを見せてもらうと「試合を観戦している時」以外に「イベント会場での体験」「試合後のファンサービス」「帰宅後の情報収集」において山があることが分かった。これもまた、コアサポーターならではの楽しみ方である。11月の調査では、よりライト層からも回答を集めて反映させたいところだ。ちなみにこのプロジェクトには、本業を掛け持ちする形で10人の社員が参加。各人の関心の対象も、スポーツビジネスや顧客体験、さらには岡田代表の理念などさまざまだという。

「最初は4人でスタートしたんですが、やりたいと言ってくれるメンバーが多くて、さらに増えそうですね。このプロジェクトを始めてから、当社と今治との関係がより密になっていくのを感じています。今治のスタッフとも週1で電話会議をしていて、今ではすっかり当社のメンバーとも意気投合していますね。岡田さんからも『何でも協力するし、どんどん俺を使ってくれ』というありがたいお言葉もいただきました」

 思えば今治とデロイトとの関係は、岡田代表が14年にデロイトトーマツコンサルティングの特任上級顧問に就任した時までさかのぼる。1年後に胸スポンサーの話が決まったのも、当時の関係性から生まれたものであろう。それから今年で5シーズン目。今治がJFLで足踏みを続ける中、一時はスポンサー撤退のうわさもささやかれたが、むしろ両者の関係性はより強固でダイナミックなものに移行しつつある。この間の経緯を、取材者の1人として見続けてきただけに、密やかな感慨を覚えずにはいられない。と同時に、今回のプロジェクトが両者に何をもたらすかについても、引き続き見守っていくことにしたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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