大谷の非凡さ示す「ありえない」打球角度 夏場の爆発へ、カギは配球への対応

丹羽政善
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提供:日本航空

本塁打にならないのは「上がりすぎ」

 先程の分類にならい、後半の打球の内訳も調べた。

【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 これを見るとゴロが少なくなって、フライの比率が上がっていることが分かる。これは想定通りで、傾向は悪くない。ただ、12本のフライのうち、3本は打球角度が43度以上だった。ここまで上がると、打球が本塁打、あるいは長打になるためには、打球初速が110マイル以上は必要で、いずれもそこまで速くなかった。

 また、2つのポップアップは50度と51度。43度以上の3本と合わせると、この5本が、平均値を引き上げていることが分かった。よって大谷も先日、こう話したのである。

「上がりすぎるのもあった」

 では、角度をつけた打球を無駄なく長打にする大谷らしさを取り戻すには、何が必要なのか。そこを突き詰めると、「適応」という要素がやはり重要となる。

角度をつけた打球を無駄なく長打にするのが大谷の“らしさ”。それを出すには、やはり「適応」が重要になる 【Getty Images】

 例えば、6月4日から7月7日まで、大谷は打者有利のカウントで打率.448(29打数13安打)という好結果を残した。長打は本塁打を含めて8本。長打率は0.966。平均打球角度は13.0度。平均打球速度は95.4マイル。

 ところが、7月12日から30日は、打率.158(19打数3安打)、長打ゼロ。平均打球角度は17.7度で、平均打球速度は94.4マイルだったが、打球が上がれば打球速度が伴わず、打球速度が早いときは角度がつかなかったりと、ちぐはぐだった。

鍵は、どう「変化」に対応していくか

 原因の一つとして大谷は、「配球も変わってきている」と、相手の攻めの変化を挙げたが、実際、傾向が大きく変わった。

 6月4日から7月7日までと7月12日から30日までの2つの期間に分け、打者有利のカウントで相手がどんな球種を投げたかを比較すると、これだけの違いがあった。

表1:6/4〜7/7における打者大谷が有利な状況での球種 球種略称:FF/4シーム FT/2シーム FC/カッター SI/シンカー SL/スライダー CU/カーブ KC/ナックルカーブ CH/チェンジアップ FS/スプリット 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

表2:7/12〜7/31における打者大谷が有利な状況での球種 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 2つのグラフを見ると、前者(6月4日〜7月7日、表1)は、4シームの比率が43.7%。続いてシンカーが13.5%。つまり、真っ直ぐ系だけで60%近い。

 一方、後者(7月12日〜31日、表2)では、相変わらず4シームが31.0%で一番多いものの、チェンジアップ22.0%、スライダー15.0%と続き、変化球の割合が増えていた。

 伴ってコースにも変化があり、前者は外角中心だが、後者は低め中心となっている。

打者大谷が有利な状況での投球コース。左が6/4〜7/7、右が7/12〜7/31の間のデータ 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 他にも、初球の入り方、相手が有利なカウントでの配球など、右投手、左投手に分けて調べてみても、配球やコースがそれまでとは異なっていた。当然といえば当然だが、相手も研究をしてきたのである。

 では、そんな変化に大谷がどう適応するか。

 まぎれもなくそれは今後の見どころだが、同時に大谷は、自分自身の状態をいかに高めるか、に神経を集中させていた。

 8月3日の夜、仮に1試合で20球を見るとすれば、少なくとも1球はホームランにできる球があると思うか? と問うと、「ありますね」と答え、続けた。

「もちろん、ホームランにできるボールがきたからといって、ホームランにできるわけではない。そこが難しい。でも、『今の打てたな』って思えるか、『甘くてもやっぱり今の打てなかったな、打てそうになかったな』って思うかは、自分の状態次第」

 2019年、夏。

 大谷は、失投を確実に仕留められるようなハイレベルな打撃技術を模索する。

JALは、日米間の渡航サポートを通じて、世界を舞台に挑戦を続ける大谷選手を応援しています

【(C)Japan Airlines】

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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