与田竜を支える後方支援のスペシャリスト 小笠原道大二軍監督の戦力供給術に迫る
小笠原流育成術の真髄に触れたのは、この取材を行う1時間前のグラウンドで見た“ある光景"だった。
彼がマンツーマンで指導にあたっていたのは、プロ5年目の石川駿。明治大から社会人チームのJX-ENEOSを経て中日に入団。即戦力の期待を受けながら、昨季までの一軍公式戦の出場はわずか12試合。身ぶり手ぶりを交えながら時間にして30分。その指導内容は一人の選手を育てるために必要な根気と丁寧さを感じさせるものだった。
「選手の感覚を共有し、前に進めていく」
小笠原流育成術の真髄とは。それは一人の選手を育てるために必要な根気と丁寧さを感じさせるものだった 【花田裕次郎/ベースボール・タイムズ】
今日(※取材日)のシートバッティングの感覚について聞いていました。昨日やおととい、その前から彼と話して取り組んできたことと、今日彼が感じたことを照らし合わせながら、「今日はこうだったのか。それなら先々はこうしていこう」と。特別なことではなく、いつもしていることですよ。
――石川選手はウエスタン・リーグで打率3割5分近くの成績を残しているものの、一軍に定着できていません。やはり現状は一軍の壁にぶつかっているのでしょうか?
若手でも実績のある選手でもない彼の場合は、少ないチャンスで結果を出さなければいけない難しい立場ではあるんですよね。ただ、いきなり「1」のものが「10」にはならないということ伝えていますし、それは彼自身が一番分かっていること。
「1年という時間をかけて何万分の一を築いていくんだよ」という会話を数年前にしたのですが、「あのときに言われたことの意味が分かるようになりました」と最近言ってきたんですよね。成長のスピードは人それぞれ違いますが、彼はそのことに気付くことができた。レベルの低い話と思わるかもしれませんが、気付けた意味は大きい。試行錯誤をしながら「やっぱりこうだ」とか「これは違うんだな」と、彼なりにしっかりと考えながら野球と向き合えています。その中で疑問に思ったことがあればこちらにぶつけてもらう。そういったコミュニケーションを繰り返してやっています。
――2軍の成績は成長の証と認めているからこそのマンツーマン指導なのでしょうか?
昨年も二軍ではそれなりの成績を残してはいましたから。ただ活躍するためには打つだけではダメですし、どうしてもチームの全体的なバランスから一軍に置いておけない事情もある。そういう立場に置かれていても彼は常に一生懸命。一切手を抜くことなく、朝は早く球場に来て遅くまで練習をやっている。その姿は見ていますから。
数年前にかけた言葉の意味がわかったと、最近になって選手から話しかけられたという。それもまた指導者冥利に尽きるのだろう 【花田裕次郎/ベースボール・タイムズ】
(取材・構成:高橋健二/ベースボール・タイムズ)
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