連載:それってホント? 野球の定説を検証

フライボール革命は日本人にも可能か 長打量産に必要なものは?

Baseball Geeks

体の大きさに着目

 フライボール革命に関して必ず巻き起こるのは、「メジャーリーガーに比べて体の小さな日本人選手にはフライ打球は効果的ではないのでは?」という議論だろう。打球が遅く、力のないフライを打ってもアウトになるのが関の山というのが理由だ。そこで、「体の大きさ」に着目し、日本人選手のフライボール革命について考察していきたい。

 研究結果によると、筋量の目安となる除脂肪体重とスイング速度は相関関係にあるとされている。やはり筋量の多い打者はスイング速度が速くなりやすいということだ。

除脂肪体重とバットスイング速度の関係。除脂肪体重が多いとスイング速度は高まる 【Baseball Geeks】

 また、打球速度とスイング速度の相関関係を示した研究結果を使って逆算すると、打球速度を出すためのスイング速度、そして除脂肪体重を推定することができる。

バレルの「最低条件」に注目すると…

 例えば、17年のメジャーリーグの最高打球速度はジャンカルロ・スタントン(当時マーリンズ、現ヤンキース)が記録した196.7km/hだった。これを逆算するとスイング速度が約172km/h必要で、そのスイングを行うためには除脂肪体重が約100kg必要。スタントンの体重は約111kgで、この打球速度で打つために非常に理にかなった体を有している。

 だがしかし、誰しもがスタントンのような体になれるわけではない。日本人選手のフライボール革命を考える上で、再度注目してみたいのはバレルの「最低条件」である。

 バレルの最低条件として、打球速度は158km/hだった。逆算してみると、必要なスイング速度が約128km/h、スイングを行うために必要な除脂肪体重は約65kgであった。仮に体脂肪率15%だと仮定すると体重約75kgで、日本人選手でも多くの選手がクリアしている数字となる。

 つまり、実は多くの日本人選手は、適切な角度で打球を打てれば長打を連発できる可能性を秘めていたのだ。

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日本人選手でも長打を量産できる!

トリプルスリー3度の山田哲人選手。決して大きくはないその体で、ホームランを量産している 【写真は共同】

 今回は「体の大きさ」に着目して、日本人選手のフライボール革命の可能性について考察してきた。その結果、実は日本人選手でも多くの選手が長打を量産できる体を有していることが分かった。

 もちろん打撃は多くの技術要素を含むものであり、簡単に筋量や体重だけで説明はできない。しかし、多くの選手が長打を量産できる可能性を有すというデータを示すだけでも、フライボール革命へ挑戦するに値するのではないか。

 例えば、トリプルスリー3度の山田哲人選手(東京ヤクルト)は76kgという体重で長打を連発している。本当は山田選手のように長打を量産する能力を秘めているにもかかわらず、体の大きさを理由に自らの可能性を摘んでしまっている選手がいるかもしれない。データやスポーツ科学の力によって、一人でも多くの選手の可能性が広がることを信じたい。

(文:森本崚太/Baseball Geeks)

引用:
http://m.mlb.com/glossary/statcast/barrel
https://www.fangraphs.com/tht/optimizing-the-swing/
笠原ら(2012): 大学野球選手のバットスイングスピードに影響を及ぼす因子, Strength & Conditioning journal 19(6), 14-18, 2012
城所・矢内(2017):野球における打ち損じた際のインパクトの特徴. バイオメカニクス研究 21(2), 52-64, 2017

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著者プロフィール

株式会社ネクストベースが運営する最先端の野球データ分析サイト。「ボールがノビるって何?」「フライボール革命って日本人には不可能?」など、野球の定説や常識をトラッキングデータとスポーツ科学の視点で分析・検証していきます。 "野球をもっと面白くしたい" "野球の真実を伝えたい"。これがベースボールギークスの思いです。 書籍『新時代の野球データ論 フライボール革命のメカニズム』(カンゼン)が7/16より絶賛発売中。

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