連載:スポーツマネジャーという仕事

他競技に学んだ“魅せ方”をボッチャでも 東京で目指す競技運営のベストな形とは

構成:瀬長あすか

ボッチャが行われる有明体操競技場の工事は順調に進んでいる。3月には日本代表選手が視察に訪れた 【写真は共同】

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会で活躍する「スポーツマネジャー」。各競技の運営責任者として国内・国際競技連盟等との調整役を務め、大会を成功に導く重要な責務を担っている。

 4月13日で東京パラリンピック開幕まで500日の節目を迎えた。ボッチャを担当する齋藤保将さんにとって、これまでの準備作業は、選手が最高のパフォーマンスを発揮できる“環境づくり”を突き詰めるものだったという。齋藤さんの手記から、ミリ単位で争うボッチャならではの競技運営の奥深さが見えてきた。

各国視察団が床の状態を気にする理由

 東京2020パラリンピック開幕まで、あと500日になりました。ボッチャは2020年2月28日〜3月1日に本大会の成功に向けてのリハーサルとなるテストイベント(2020ジャパンパラボッチャ競技大会)を実施するのですが、それを考えると、“あと500日”ではなく、“もう一年もない”という思いです。これから準備もペースアップしていく段階になります。一昨年は基礎工事をしていた施工中の有明体操競技場もだいぶ形が見えてきましたし、いよいよ本番が近づいてきた実感がありますね。

 16年7月のスポーツマネジャー就任からこれまでの準備期間を振り返ると、苦労したことと言えば、競技日程の調整や競技環境の整備でしょうか。実はボッチャの競技運営には厳密な基準やマニュアルがないのですが、その中でもいかに選手がハイパフォーマンスを発揮できる環境をつくれるかが大事だと思っています。

 ボッチャは基本的に、選手自身がボールやランプと呼ばれる勾配具などの用具を用意する競技なので、競技用具の手配や調整も大事なのですが、どんな床材で、どんなレイアウトでコートを並べるかという“環境づくり”のウエイトも大きくなります。

 特に自分でボールを投げることのできないBC3という選手のクラスでは、ランプを使用してボールを転がすのですが、空中戦がない分、床の状況はダイレクトに影響します。些細(ささい)なひずみが生じていたり、場所によって状態が異なったりしているのは好ましくありません。各国から訪れる視察団の方々からも、「試合をするコートとウオームアップコートの環境は同じか?」という質問をよく受けます。ボールの転がり方を入念にチェックしたい選手にとって床の状態は、それほど重要なポイントになるのです。

ランプを使うBC3クラスでは、床の状況が競技に与える影響は大きい 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 競技会で使用する床材などは国際ボッチャ競技連盟(BISFed)のルールブックを見ても、本当に簡単な規定しかないので、とにかく選手の目線に立って議論を尽くします。過去の大会を踏襲しつつ、「東京大会ではこうしてはどうですか」とひとつずつ提案し、BISFedに意見をもらって調整する……そういった方法で調整を進めていきました。

 最近の国際大会で、高温多湿のために各国選手が持参したボールが膨張してしまい、用具検査を通過できない事態が頻発したと聞いています。ミリ単位の細かいところまでこだわり抜くボッチャだからこそ、選手が快適に競技できるように気を配る必要があります。

東京以後につながる競技運営の形づくりを

 本番会場の有明体操競技場は、オリンピックでは体操が行われます。その縁で体操の試合を見る機会をいただきました。私はもともとスポーツマンというわけではなく、特別支援学校の教員ということでボッチャに関わるようになったこともあり、正直に言うと、これまでスポーツ観戦をする機会がほとんどありませんでした。ですが、他の競技の運営を見る機会が増えると、ボッチャの競技運営に生かせそうな見せ方の工夫や仕掛けに気づくことが増え、非常に勉強になっています。

 ボッチャは粛々と試合が進行する競技なので、これまで試合中は静かにして選手の集中を促すものだと思っていたのですが、体操で試技中に音楽が流れる中、選手が研ぎ澄まされた演技をしている光景を目にし、これはボッチャの大会でも取り入れてみようと、実際に国内大会で使用するようになっています。

競技の演出で「他競技から初めて学べることはたくさんある」と齋藤さん 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 現実には、東京2020パラリンピックの演出で音楽を流せるかどうかはBISFedとの調整次第ですが、こうして他競技を見て初めて学べることもたくさんあるし、実はこのやり方でないとダメという運営はあまりないんだということにも気づかされました。

 私は00年シドニー大会と16年リオ大会は現地に行っています。12年のロンドン大会は現地に行ってはいませんが、日本代表選手団として参加したスタッフや関係者から情報収集しています。ただ、過去の大会で参考にできるところは積極的に取り入れたいと考えている一方で、実況アナウンスを入れたり、間近で競技を楽しめる観客席をつくったりしている日本の大会運営の良さもあると感じています。

 願わくは、今準備をしている東京2020パラリンピックで、今後の国際大会やパラリンピックで活用してもらえるようなひとつの形をつくりたいと思っています。そのためにも引き続き、いいと思ったものは是が非でも取り入れてもらえるよう積極的に働きかけていきたいです。

プロフィール

齋藤 保将(さいとう やすまさ)
埼玉県在住。大学卒業後、当時勤めていた特別支援学校で、授業で取り組んでいたボッチャを知る。以後徐々に本格的に競技に関わるようになり、1999年には日本選手団コーチとして国際大会に初帯同する。2007年には埼玉県障害者ボッチャ協会(現埼玉県ボッチャ協会)の設立に関わり、14年からは日本ボッチャ協会理事として大会運営と審判統括を担当。16年7月より東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のボッチャ競技スポーツマネジャーに就任する。
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著者プロフィール

1980年生まれ。制作会社で雑誌・広報紙などを手がけた後、フリーランスの編集者兼ライターに。2003年に見たブラインドサッカーに魅了され、04年アテネパラリンピックから本格的に障害者スポーツの取材を開始。10年のウィルチェアーラグビー世界選手権(カナダ)などを取材

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