「日本語の再発見」で独自文化の強化を 文化・教育委員会 青柳正規委員長に聞く(後編)

岩本勝暁

アクション&レガシープラン文化・教育委員会の青柳委員長(右)とモーリーさんの対談。日本文化について話を深めていく 【写真:築田純】

 開催まで1年半を切った東京オリンピック・パラリンピック。“世界的スポーツの祭典”が近づくにつれ、東京の街、そして日本全体も徐々に変わっていく。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、「アクション&レガシープラン」として、オリンピック・パラリンピックを東京で行われる国際的なスポーツ大会としてだけでなく、2020年以降も日本や世界全体へ様々な分野でポジティブな“レガシー(遺産)”を残す大会として“アクション(活動)”していく計画を立てている。

 タレント・ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんが、「アクション&レガシープラン」のキーパーソンに直撃レポートする今回の企画。本稿では、アクション&レガシープランの文化・教育委員会の青柳正規委員長との対談後編をお届けする。

ラッパーが日本語の最先端!?

日本文化の最たるもの「日本語」に火を付けたいと熱く語るモーリーさん 【写真:築田純】

――東京2020を機に、東京の文化、日本の文化のどんな側面をアピールしていきたいですか?

モーリー・ロバートソン(以下、モーリー) ここまで多様性や少数者との共存について話をしてきましたが、やはり私たちの伝統である「日本語」に火を付けたいですね。

青柳正規委員長(以下、青柳委員長) そうですね。私もそう思います。

モーリー 日本語は本当に奥が深くて、「大切にしなきゃ」という思いが日増しに強くなっています。そういう自覚とともに、日本語の語法や熟語、漢字など「日本語の再発見」というものがほしいです。

青柳委員長 これから進めようと思っていることの一つに、こんなものがあります。天皇や上皇の命によって(平安時代から南北朝時代にかけて)公的に編さんされた『勅撰和歌集』というものがありますよね。これと似たようなものを作りたいという動きが出ているんです。
 それから世界で一番短い詩、つまり俳句があります。今、俳句が欧米にも普及しだしている。ここからもう一度、自分たちの言葉のおもしろさ、大切さというのを認識することができると思います。

モーリー 『勅撰和歌集』というのは、まさにハイカルチャー・オブ・ハイカルチャーですね。ある種、対極にあるのがヒップホップやラップ。アフリカ系アメリカ人の文化から輸入されたものですが、まあ口がよく回るんです、若い人たちは(笑)。毎日練習をやっているから、踊りもうまい。言語センスが鋭く、音に対する耳の感覚が研ぎ澄まされているので、そういう人たちの才能を『勅撰和歌集』と融合させてみたいですね。

青柳委員長 いいですね。

モーリー ある意味、ラッパーが日本語の最先端と言っても過言ではありません。日本語を破壊的に創造しているわけだから、壊す側でもあるけど再構築する人たちでもある。彼らに『勅撰和歌集』や『万葉集』『徒然草』『方丈記』みたいなものを体験させてあげると、新たな包摂になるのではないかと思います。
 ただ、これは縦割りの考え方だとできないんですよ。ヒップホップやラップはもともと正規のものではありませんから。古い言い方をすれば、嫡子ではなくて庶子。悪い子がやっているものという認識で見られてきました。ところが実は日本語が活性化しているというところに目をつければ、日本語の認識も広がっていくと思うんです。

青柳委員長 価値観やしきたりも見直さなければいけないですね。着地点がどこになるかは別として、そういった議論をもっとしなければいけません。それが今は、議論するパワーさえなくなりつつあるのではないかと感じることがあります。

日本語を磨いて、自分の言葉で表現できるように

モーリー 日本語を大切にするということにもつながるのですが、次の段階として議論によって雄弁さが生まれます。いろいろなものを違う言葉で言い表せるようになると、言葉に陰影が生まれて人を説得する能力も上がる。ディベートがうまくなります。米国でいうと、オバマ的な人を感動させる話術。若い人にもここを磨いてほしいですね。

人を感動させる話術を持つ米国のオバマ前大統領。日本の若い人も言語を磨いてほしいとモーリーさんは語る 【写真:ロイター/アフロ】

青柳委員長 雄弁術というのは古代ローマの弁論家マルクス・トゥッリウス・キケロの時代から、あるいは古代ギリシアの時代からありましたが、昔に比べてやはり力はなくなってきました。だけど、そうは言いながらも欧州や米国では言葉の力を誰もが認めています。
 オバマ前大統領が就任して1年目の頃かな、米国にいたことがありました。大学で「今日はオバマの演説がある」なんて言うと、学生がみんなテレビのある部屋に行くんですね。そこで、15分なり20分なり、じっと聞いている。演説の力を感じましたね。

モーリー 日本では権力のある人ほど、「下を向いて原稿をなぞっている」と言われますからね。つまり、セレモニーなんです。それに対して、米国では素で話す必要がある。大統領選のディベートで紙なんか見ていたら負けるわけですよ。
 そこは文化や歴史の違いもあるんだけど、雄弁な人たちにとっての伝統というのもあるはずですよね。もしかしたら、『勅撰和歌集』のようなところに収められているかもしれない。そういう意味でも、自分が話す言葉、あるいは日本語に対して愛着を持ってほしいと思うんです。言語を磨いて、東京オリンピック・パラリンピックで味わった感動を自分の言葉で表現できるようになってほしいです。

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著者プロフィール

1972年、大阪府出身。大学卒業後、編集職を経て2002年からフリーランスのスポーツライターとして活動する。サッカーは日本代表、Jリーグから第4種まで、カテゴリーを問わず取材。また、バレーボールやビーチバレー、競泳、セパタクローなど数々のスポーツの現場に足を運ぶ。

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