「こんなの壁なんて言ってられません」 堂安律の2018年を振り返る
「どんな壁でも乗り越えていく」
オランダリーグの中規模クラブでは収まりきらないレベルに達した堂安。移籍について取り沙汰されることも多いが、まずは来年1月のアジアカップ優勝を視野に入れる 【Getty Images】
この時期、堂安に対し私は「もしかして『壁』のようなものにぶつかっているのか?」と聞いたことがある。
「これから、もっと大きな壁が来るでしょうから、こんなの壁なんて言ってられません」
堂安の、この言葉が私の耳から離れない。
フローニンゲンは、オランダでは中規模のクラブで、成績が悪ければそれなりにプレッシャーがかかってくるが、広くヨーロッパで見れば、いち地方クラブだ。今後、堂安がビッグクラブに行けば、今とは比較にならないプレッシャーがのしかかってくる。また、日本代表の主力になった暁には、国民の期待を背負いながらワールドカップの予選を戦わないといけない。それは、今より険しい道になるだろう。堂安の真価が問われるのは、まだまだ先のこと――。
さすがに試合直後の堂安に、こんなダラダラした話をしなかったが、似たような話をコンパクトに縮めて伝えてみた。
「そうですね。もしかしたら、次のステップで大きな壁が来るかもしれません。それは本当に分からない。どんな壁でも乗り越えていく自信はありますし、自分の力で乗り越えていこうと思います。去年の最初、5試合ぐらい出られなかった時(が壁)なのか、分かりませんが、あの時のように、これからも壁を超えていきたいと思っています」
堂安は今、オランダサッカー界の注目銘柄である。私もテレビで「堂安が冬の移籍市場で移籍してしまったら、残留争いのフローニンゲンはどうなるのだろう」「そもそも、1月はアジアカップで堂安がいないし……」と議論しているのを聞いた直後に、この原稿を書いている。
来年に向けて……まずは、アジアカップ
「もう、堂安はフローニンゲンのレベルを越えている。練習も簡単にできてしまっている。今シーズンが、堂安にとってフローニンゲンでの最終シーズンになる。だが、冬の市場で移籍するのがいいかといったら、そうでもない。シーズン半ばでチームを代えるのは簡単ではない。しかも堂安は、1月いっぱいアジアカップに参加するから、シーズン後半戦は2月から5月半ばまで3カ月半しかない。もちろん、移籍に関して決断するのは堂安本人。けれど、アドバイスを求められたら私は『今季いっぱい、残ったほうがいい。夏まで待っても、君はまだ21歳だ』と言うだろう」
フェイエノールト育成出身のバイスは、エクセルシオールでプロになり、フローニンゲン、フェイエノールトとステップアップした。この間、若き日のミシェル・バストス(元ブラジル代表)、ルイス・スアレス(ウルグアイ代表)、ヌリ・サヒン(元トルコ代表)、ジョルジニオ・ワイナルドゥム(オランダ代表)等、錚々(そうそう)たるタレントとプレーしている。
「当時の彼らと比べても、堂安は遜色ない」。それがバイス監督の言葉である。
「あくまでアドバイスを求められたら」と何度も繰り返し言っていた指揮官と、移籍について堂安は話をしたのだろうか。
「しましたね。僕が相談させてもらうこともあります。オランダリーグで監督をしているだけあって、すごく理解してくれています。監督自身は『律がいなくても戦わないといけない』と感じているのかなと思います」
オランダリーグの監督は、チームのベストプレーヤーを引き抜かれるのが宿命である。その覚悟が、もうバイス監督にあると堂安は感じたのだろう。
「まずは、アジアカップです。移籍のことを考えてプレーすると地に足をつけてプレーできないので、チームのためにプレーして、それからプラスして自分の結果がついてくればいいかなと思います」
アジアカップの目標は優勝ですねと問うと、堂安は「もちろん!」と元気よく答えて去っていった。