連載:モーリーが深堀り! 2020年とその後の日本
お互いの個性をどう補い合うか 文化・教育委員会 今村久美さんに聞く(後編)
子どもたちに“分断”を示すこと
オリンピック競技の遡上(そじょう)に載ろうとしているeスポーツ。“オタク”のモノと思われがちのTVゲームが新しい“アスリート”の可能性を広げる 【Getty Images】
今村 世界でも何千人も競技者がいるようですね。
モーリー 日本人、韓国人、中国人の競技者は結構強いのです。これは集中力の問題なんですかね。もしかしたら受験勉強で培っているものが大きいのかもしれません。
何が言いたいかというと、これがインクルージョンなのではないかと思います。体を動かしていない、いわゆる運動神経や運動能力が低くてもオリンピックに参加できる。オタクのステレオタイプでいうと、ゲームばかりやっていて、人と話すのが苦手、社会性も低い。いつも電気街ばかり行ってスポーツからは縁が遠い。けれどもeスポーツの中では素晴らしいスポーツマンシップを発揮するわけです。今までは運動が苦手で、体育の授業をさぼっていたような人がヒーローになりえるということがあっても良いと思います。それが包摂につながるのではと思います。
今村 そのことによって新しい物差しができるのはいいですね。確かに、まったくオリンピック・パラリンピックに触れない人もeスポーツがあれば接触を持てるかもしれません。
モーリー オリンピックというプラットフォームの端っこでも良いので、あるといいですよね。そのことで今まで運動が嫌いで、そういう世界を遠ざけていた人たちが、オリンピックにチャレンジしてみたいという気持ちが生まれるかもしれません。そして互いがリスペクトを持つことで交流が生まれますよね。これはある種、異文化との接点と同じです。
今村 そういう意味でも、この東京大会を機会に、この社会で起きている“分断”を子どもたちにちゃんと包み隠さず見える形で示していくことも大事だと思っています。
例えば、健常者と障がい者の分断は、日本では今まで隔離するような政策をしてきたわけです。そういうことや、世界で起きている分断など、様々な規模の格差があるということを、道徳的な部分だけを取り上げた教育でなく、起きてしまった現実として子ども達に示すことが大事かと思います。その上で、子どもたちがそれをどう感じて、次にどう行動していこうかと思いますので、そういう観点の教育が必要だと思います。
モーリー まさにおっしゃる通りだと思います。ロンドン大会の時は、日ごろスポーツに興味のない人もたくさんいましたが、それが実現できたのだと思います。
ちょうど英国が緊縮財政となり格差の問題が出てきて、ホームレスまではいかないけど「プレカリアート」というホームレス寸前の人たちが激増したことが大問題になっていました。その時にロンドン大会をきっかけに、やはり隣人と助け合うことの大切さを確認するという意味で、“リアリズム”だったんです。
ですから今おっしゃった分断という現実に、覆い隠すのではなく、むしろ見つめさせて、本当はどうなのかということを共感できる第一歩になるといいですね。
更衣室も“未来の学校”のあり方を示すために
2020年はオリンピック・パラリンピックの感動を、世界中のヘッドラインに乗せて欲しいと話すモーリーさん(左) 【写真:築田純】
モーリー 要は全体的なテーマとして浮かび上がるのが、日本人はあまり多様性を持っていないと。均質の幸せ、価値観でまとまることで、うまくいっていた時期があるわけです。今はその時期が終わり、時代的にも変わらなきゃいけなくなっているんです。ですが、「均質の幸せを維持することが幸せなんじゃない?」と感じている大人が多くて、それを変えること自体に対して、無意識に抵抗していると思います。それでもシステムを変えて、現実に合わせていく。これが一番大きいテーマになるかと思います。そこにオリンピック・パラリンピックの経験がポジティブなひらめきをもたらしてくれるといいですね。
今村 例えばセクシャルマイノリティの方たちのために、会場の更衣室がどんな形になっているかを考えられたら、未来の当たり前を示すことができます。それがオリンピック・パラリンピックの会場で実現できると、未来の学校もそうなっていくということが学べるかもしれません。
モーリー そうなると2020年の米国チームはジェンダー・フレンドリーを感じて、自分たちの国もそうなればいいのにと涙を流して拍手をしてくれるかもしれませんね。オリンピック・パラリンピックの感動を世界中のヘッドラインに乗せて欲しいです。