“共生社会”を経験する大きな機会に 文化・教育委員会 今村久美さんに聞く(前編)

構成:スポーツナビ

自分で考え被災地支援の行動をした学生

今までの「一致団結」で乗り切るだけでなく、周りを受け入れる「多様性」を持って、社会の変化の問題解決をしていく 【写真:築田純】

――東京オリンピック・パラリンピックに向けてどんな活動をしていきたいか、または今、計画していることはありますか?

今村 私としては、今までの「みんなで清掃活動をしましょう」とか「みんなで元気にあいさつをしましょう」という一律な内容だけではないと思っています。むしろ、「みんなでやろう」ではなくて、自分の頭で考えて、自分のやり方でソーシャル・アクションを、小さくてもよいので起こしていく機会にして欲しいと思っています。そのような子どもたちにとっての機会をたくさん作っていくということをしていきます。

モーリー 「みんなで一丸となって選手を応援しよう」という、今までのやり方だけではないということですね。

今村 私は教育の認定NPO法人「カタリバ」の運営を行っていますが、今、私たちが行っている取り組みとして、全国の高校生たちに「マイプロジェクト」という考え方を普及させています。これは学校や地域社会の方々、NPOの方々と協力し、高校生が何かしら自分が気になることや、「これは変だ」と思うことに対してソーシャル・アクションを考えて、アプローチしてみる。そしてできたこと、できなかったことの経験を振り返って学び、次の行動を起こすというものです。この「マイプロジェクト」学習サイクルを、学校の先生方に導入していただけるように、全国を歩いています。

 例えば外国人の方たちとの関係性だったり、地域のおばあちゃんが一人ぼっちの状況を考えてみたりとか、東北地方だと仮設住宅の前でおじいちゃんがずっと空を見上げているという日常もあったりします。そのようなことに気づくことで、みんなが一律で同じことをやるのではなく、それぞれで取り組んでみるということです。これを始めたのが2013年なので、オリンピック・パラリンピックの活動よりも前のタイミングでしたが、この活動を広めていきたいと思っています。

 東日本大震災が起こった際は、11年に東北へ引越しし、宮城県女川町の避難所で一時期生活させてもらいました。被災地支援というのは、格差が生まれやすく、課題が浮き彫りになってくるのですが、そこで集中的に教育支援をしていました。

 岩手県大槌町で活動をしていた時、ある男の子が、「震災を経験してから自分は助けられる一方だったけど、自分も助ける側になりたい」と話したことがありました。彼は、もともとの集落が解体してしまい別々に住むことになってしまったお年寄りが孤独になってしまったことに気づきました。そこで地域の方ともう1回つなぎたいと考え、その高校生チームが、みんなでその集落の人間関係をつなぎ直す企画を何度かやりました。そのアプローチは上手くいかないこともあったり、予想外に役に立った実感もあったりと話し、それは今まで机の上で学んできたことよりも大きな学びになったとのことです。今彼は高校を卒業して、東京で学んでいますが、もう一度岩手県に消防士として帰るそうです。東京で学んだことを生かし、地域社会に貢献したいと話しています。

 そのように子どもたちが自分が見つけた課題に、自分でアプローチする。そのような多様なアプローチを多発させるということを教育機会で作っていきたいと思っています。

モーリー 今のような話は地方創生という掛け声の下に行われていることに対する、とても強烈な解決方法だと思います。

 今までは一致団結、みんなでひとつの行動を取ることが日本の美徳とされていましたが、これから新興国がやってくるから、“多様”に個人が取り組まないといけません。さらに踏み込んで言うと、過疎化が進んで、経済的にも陥没している地域は、若者が逃げてしまうのです。それでも大人たちは今まで通り、みんな一律の行動をして、まるでみんなで“雨乞い”をして奇跡を起こしたいかのようなやり方で取り組んでしまいます。でもそれじゃ雨は降らないですし、そのやり方じゃダメですね。子どもたちにもっと伸び伸びやらせてあげてという話はしますが、結局はスケボーを禁止にしてしまったり、昭和40年代、50年代のマニュアルに従わせてしまいます。これがどう変わっていくのかですね。

今村 今、教育界も学習指導要領の改訂ということで、子どもの主体性を育てていく、自分の頭でものごとを考える子どもを育てるという方面に変えようとしています。ただ、やはり教員養成されてきた方々が、自分が受けてきた教育をそのまま指導に取り入れることもあります。それでも先生方の中には、そのあり方を変えていこうという動きもあります。また今回のオリンピック・パラリンピック教育を通して、それを取り入れようという先生方もいらっしゃいます。

考える時間を与える教育を

モーリー このような現場の変化は、変わりたい人たちとそのほかの人との間で戦いになりそうですね。「あなたがそういうことをやると、うちもやらなきゃいけなくなる」とクレームが出そうです。先日も「置き勉」(学校に勉強道具を置いて帰ること)の問題がありましたよね。現実的に子どもが腰を痛めるから、学校が「置き勉を認める」としたけど、ほかの学校からはそこは予算で対応しているから圧迫されると文句が来るそうです。そういう風にやり方やフローが凝り固まって、既得権益というほどではないにしろ、そういうものでガチガチに固まった教育現場は、どのように氷解させられるかですね。

今村 今は何かを変えるための情報交換がSNSでできるので、ものすごくコストは下がっていると思います。誰かが「うちの学校ではこういうルールがあるけど、それっておかしいよね」と発信すれば、そこから動き始めます。置き勉の問題も、それはずっと続いてきた問題でしたが、SNSなどを通して情報交換され変わってきましたよね。それこそ冬なのに半そで半ズボンで過ごさなきゃいけないというルールも、誰かが「おかしい!」と発信できたりします。

モーリー 私も日本の小学校5、6年生の時は半そで半ズボンで過ごしました。そのおかげで元気な体になりました(笑)。

今村 そういう側面も一理ありますね(笑)。

 ただ、「そういうやり方ではないよね」とする学校も出てきています。角川ドワンゴ学園だったり、堀江貴文さんが開校する学校だったり、新興的な動きも出てきているので、これから変わっていくと思います。それに今は変わらざるをえない環境になってきていると思います。

 例えば、授業の中で1番最初に手を挙げて、1番に発言するということを日本の学校では良いとされます。ですが、もしかしたら、ゆっくり考えている子どももいるかもしれないですし、じっくり考えた上で、何かに書いてから考えたい子どももいるかもしれません。一律の方法だと、その考える機会さえ奪っているということに気付けないということを問題視している学校もあったりします。

モーリー ゆっくり考える時間を与えるということですね。

今村 むしろ、元気な子どももいていいし、ゆっくり考える子もいていいという考え方です。

モーリー 住み分けして共生するということですね。それはいい考えですね。

今村 そういう風に少しずつ学校も変わってきているところです。

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