日本が示したい“循環型社会”の在り方 街づくり・持続可能性委員会 小宮山委員長に聞く(前編)

構成:スポーツナビ

廃材から新しく建設する循環型社会

新国立競技場は、認証材を使って建築されている。また大会後に取り壊される会場の資材に関しても、その後の行き場も決まっている循環型社会のあり方を示している 【写真は共同】

小宮山委員長 話題を多様性から移しますが、もう1つ重要なことが『街づくり』です。私達は「街づくり・持続可能性」委員会として活動していますが、その中の標語で私が好きなのは、「City within Nature、Nature within the City」です。最初に地球の環境問題の話をしましたが、地球の問題を解決しなかったら、都市の持続的な未来はありえません。ただ都市と自然というのは、完全に分離して良いかというと、そうではありません。

 その中で、東京はなかなか上手くいっている都市かと思います。もともと新宿御苑や浜離宮といった緑が街の中にありますし、東京駅周辺の新開発された地域にも、相当な植林がされました。日本は60年代から70年代は公害が非常に大変な時期でした。東京の川はドブに近かった状態です。ただ現在、東京には江戸川、多摩川、荒川などの川が流れていますが、すべての川で鮎が遡上(そじょう)していて、鮎釣りができます。東京に来られた観光客が「こんな大都市なのに空が青くてキレイなのか」と驚かれますが、それだけじゃなくて、水もキレイなのです。まさに「City within Nature、Nature within the City」です。私はこれをもっとアピールしたいですね。世界の人口1,000万人都市と比べても、川の水質は抜群に良いですから。大都市で鮎釣りができる都市は東京しかないですよね(笑)。

 私は東京を流れる川、あちこちにある緑地、東京がある関東平野を囲む山々など、まさに「City within Nature、Nature within the City」という形ができていると思います。まだ十分ではないですが、このあたりは意外と日本人が気付いていない、東京の大きなメリットの1つです。

モーリー 今、急ピッチで作っているスタジアムやスポーツ施設もその思想を組み込んでいるのですか?

小宮山委員長 建築に関しては、競技場を壊して競技場を作っているので、資源は残っています。もちろん全部は無理ですが、ちゃんと前の競技場のスクラップや鉄を使って作っています。メインスタジアムとなる新国立競技場も、外から見ると大量の木が使われているように見えますが、その材料はすべて認証材(※森林認証を受けた森林から産出された木材)です。基本は日本の認証材を使っています。

 また仮設施設は、大会終了後に解体され、その後どこでどのような建物のために使われるかも決まっています。日本のキラーコンテンツとなりえる、“循環型社会”を実現するということです。リデュース、リユース、リサイクルの3Rは、日本が世界に先駆けて発信した循環型社会の標語です。それをオリンピック・パラリンピックで実践しようとしています。

日本の3Rをアピールできえれば、未来へのビジョンを示すこともできる 【岡本範和】

モーリー 先進国の中でも、実際に3Rを実践するのは難しい場合が得てしてあります。先日、20歳前後のベルギー・アントワープから来た旅行者一向に会いました。彼らは東大阪市に訪れていたのですが、「街の様子はどうですか」と聞いたら、「どこよりもキレイだ」と言っていました。われわれから言うと大阪の下町という印象ですが、彼らから見ると、ゴミが何も落ちていない、朝からキレイで、なんてすごいんだと。

 アントワープというのは、ダイヤモンドの取引が有名だったり、ファッションの街としても有名だったり、きれいなイメージがあります。実はそういった欧州の街でももろもろの理由がありまして、ゴミの回収が大雑把だったりします。ですから日本式の“キレイ好き”というのは、ここに1週間滞在した海外の方はギョッとするほどです。どこまで潔癖な国なんだと。その文化をそのまま3Rにつなげれば、未来へのビジョンを示すことができますね。

 環境に関しては、もう1つ、新興国の問題もありますね。特に中国では、先々に起こる最大の政治問題は社会格差ではなく、環境問題になるかも知れません。北京はPM2.5で赤いとか、重慶の川に水銀が入っているとか問題になっています。そのような中で仮に日本が、来日する中国の若い人たちに、循環型社会の思想を示せば、それは理想社会にも見えるでしょう。いわゆる政治議論やイデオロギーを超えて、このようなインプレッションを何百万という中国人が持ち帰れば、次世代の中国社会の糧にもなります。

小宮山委員長 米国などではビルを爆発させて壊す動画などがありますが、例えば日本の都心にあったホテルの建て壊しの際は、1階1階壊していきました。それは何のためかというと、砂塵を巻き上げないようにということもありますが、もう1つはその廃材を全部使うのです。鉄は鉄、アルミはアルミ、ガラスはガラス、木材は木材と。もちろん労力はかかりますが、再利用分があるので材料費も削れますし、それほど値段が跳ね上がることにはならないのです。これこそ壊し方の模範的な例でもありますし、循環型社会の象徴的で分かりやすい話かと思います。

モーリー そういうものをオリンピック・パラリンピックでフィーチャーすることも必要かもしれませんね。

小宮山委員長 環境というのは非常に重要です。環境の話をする時、空と水と土壌がテーマになります。空は大気汚染物質を3日排出しなければキレイになります。川の水は10年から20年は必要です。もっとも時間を必要とするのは土壌です。これがキレイになるためには、大変な時間が必要です。ただ日本は土壌もキレイになってきました。その事例を示すことが、現在、公害に苦しんでいる世界の国々に、それが回復できることを示す希望になると思います。

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