前ヤクルト・大松が現役にこだわる理由「やっぱ野球が好きなんやなあ」

菊田康彦

豊富な経験は「間違いなくチームのプラスに」

昨年は代打の切り札として、シーズン2本のサヨナラ本塁打を放った 【写真は共同】

 ここでバットを置くわけにはいかない。まだ野球がしたい、まだまだできる──そんな強い気持ちが、大松を突き動かしている。

「『やっぱ野球が好きなんやなあ』って思いますよ。やっぱりドキドキしたいし、真剣勝負したいし、というところが好きなんでしょうね。気持ちの面で『もういいや』って思ったら辞める選択肢も当然あったんですけど、ユニホームを着続ける気持ちがあったら、またどこかで野球をやることでプラスの経験ができるんじゃないかという思いがあって……。そういう気持ちがあるうちは、どんな形であれボロボロになるまでやって(引退は)そこからでも十分なのかなと思います」

 そこには敬愛する先輩の存在もある。今年は42歳で通算2000安打を達成し、プロ26年目の来季も現役を続ける福浦和也には、ロッテ時代から常々「オレより先に辞めるな」と言われてきた。

「そうですね、そこは少なからずありますね。いろいろ相談もしますし、食事とか、しょっちゅう連絡も取ってるので。当然(現役続行は)厳しい選択ではあるんですけど、自分でまだやりたい思いがある以上は、思い切ってやるべきだという話はしていただきました」

 この2年間で、手術したアキレス腱との付き合い方もだいぶ分かるようになり、今はそこに関しての不安はない。このオフは現役続行に向けて練習を続けるかたわら、36歳になった体のメカニズムを自分なりに分析。今シーズンの反省を踏まえ、どんなケアをしてどんなトレーニングをすれば最大限のパフォーマンスが出せるのかを、各方面のアドバイスも受けながら突き詰めてきた。プロ14年間の経験も、次にどんな舞台に上がったとしても必ず生かせると自負している。

「そこそこ長く(プロで)やらせてもらってるので、その経験というのは間違いなくチームにプラスになると思います。セ・リーグで代打を経験させてもらって、レギュラーだけがすべてじゃないですし、ひと振りにかけるというところでの魅力とか大事さとかも教えてもらいました」

社会人野球や海外も視野に

 理想はもう一度、NPBの舞台で勝負すること。ただし、それがかなわないのなら、新たな環境にチャレンジするつもりもある。大学卒業後に進む可能性もあったという、社会人野球もその1つだ。

「僕にとってはやったことのない未知の世界なんで、今後のことを考えたら経験してみたいっていう気持ちもありますね。都市対抗を目指しての一発勝負っていうところは興味があるし、やってみたいなと思います」

 むろんプレーが続けられるのであれば、どんな環境でもいとわない。それこそ海外であっても、今までと違う野球、違う文化を経験することは、自分にとって確実にプラスになると考えている。その一方で日々、自分が置かれている立場の厳しさも痛感している。

「毎日いろいろな思いになりますし、同級生でも年下でも引退していく選手もたくさんいるし……。(自分の)年齢を考えれば、どの球団も若返りをしたいというのは当然なので、そういう波には逆らえないのかなって思うこともあります。けれど、こうやってもがいて、そこになんとか一石を投じたいですね」

 厳しい道を選択していることも、残された時間が多くないのも重々承知している。その上で、可能性にかけて大松はもがき続ける。一度きりの人生、後悔することのないように──。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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