新任専務が考える「4万人」へのストーリー J2・J3漫遊記 アルビレックス新潟<後編>
「ニイガタ現象」から15年後のビッグスワンにて
今ではスタンドの半分が埋まらなくなって久しいビッグスワン。かつては4万人を集めた時代もあった 【宇都宮徹壱】
「こんなにお客さんがたくさんいて、一体感のある応援ができるなんて、J2では珍しいですよ!」
町田がビッグスワンで新潟と戦うのは、今回が初めてだから感動するのは無理もない。とはいえ「15年前は、もっとすごかったんだけどね」と教えたくもなる。
かつて新潟には、驚異的な入場者数を誇った時代があった。具体的には、J2最後のシーズンとなった03年から、J1で2シーズン目となる05年まで。03年の平均入場者数は3万339人。J1の浦和レッズ(同2万8855人)をしのぐ数字であった。昇格1年目の04年に3万7689人、続く05年に歴代最多となる4万114人という驚異的な数字を記録。それまでサッカーのバックボーンがなかった地方都市に、4万人を超える観客が集まるようになったことで、巷では「ニイガタ現象」と呼ばれるようになった。
もっとも、そのような状況が何年も続くものではない。06年以降、ビッグスワンの入場者数はなだらかに減少し、ついに11年に平均で3万人を割り込むに至った(2万6049人)。最近の入場者数の減少について、サポーターに聞いてみたところ、さまざまな答えが返ってきた。ブームが終わって飽きられた、無料チケットをバラまきすぎた、新規ファンを獲得するためのアピールが足りない、などなど。さまざまな原因が指摘される中、ある古参サポーターが興味深い証言をしてくれた。
「実はアルビがJ1に昇格した時を境に、県内の4種のサッカー人口が増え続けたんですよね。ウチの2人の子供もサッカーを始めましたけれど、週末には試合があるし、僕もチームの引率から戻ったら疲れてしまって(苦笑)。だからシーパス(シーズンパス)を買っても、年に5試合くらいしか見られない。そういう話はあちこちで聞きます」
確かに、クラブにとってもサポーターにとっても、悩ましい話ではある。とはいえ、サポーターのライフスタイルが、年齢とともに変化するのは当然の話。そこを見越した上で、次世代のファンを増やしていくことをクラブ側ができていなかったのは認めるべきであろう。とりわけ、若い世代にリーチしやすいSNSの活用はクラブにとって急務であったにもかかわらず、新潟はこの分野でかなり遅れを取っていたと指摘せざるを得ない。
アルビSの社長が新潟の専務に
新潟の平均入場者数は、05年をピークに減少が続いているが、ゴール裏の熱気は今も変わらない 【宇都宮徹壱】
その意味で、町田戦がホーム7試合ぶりに1万6000人超え(1万6091人)となったことは、注目に値する。この状況について、ツイッターでポジティブな発信をしていたのが、この9月にクラブの専務取締役に就任した是永大輔である。
《J2残留が決まった今、実質的には消化試合なわけだ。それなのに16,000人。今季平均入場者数以上の観客数なわけだ。/来季への想い、アルビへのハート、ワクワク、感じるじゃないか。/それこそがおれたちのエネルギーなんです。/次節もワクワクさせてやる!》(10月30日のツイートより)。
これまで是永には2回、インタビューしている。最初はシンガポールで、次に東京。新潟で話を聞くのは今回が初めてである。さっそく専務就任にあたって、どんな改革から着手したかについて尋ねてみた。
「まず、オフ・ザ・ピッチとオン・ザ・ピッチをちゃんとやりましょう、ということですね。オフ・ザ・ピッチで言うと、今までの体質は『アルビレックス様』でした。メディアに対しては『取材させてあげる』というスタンスだったし、地域とのつながりも減っていたんです。そこはまず改善しようと。そしてオン・ザ・ピッチでは、『アルビらしさ』を表現すること。ビッグスワンが一番盛り上がる瞬間って、実は相手に奪われたボールを奪い返した瞬間なんです。そういう、お客さんが期待していることを実現させることと、チームが強くなることとは、決して矛盾しないと僕は考えています」