手倉森氏が考える「日本らしいサッカー」 間近で感じた3人の代表監督の信念とは?

戸塚啓

代表監督の資質は「日本らしさを表現する力」

ロシアW杯では西野朗監督(右)の元でコーチを務め、ともに激戦を戦い抜いた手倉森氏(中央) 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 メッセージの発信を「代表監督の仕事の1つ」と話すように、ベガルタ仙台とリオ五輪代表を率いていた当時の手倉森は、ピッチの内外で独特の存在感を放っていた。日本代表コーチという経験を加えた今、彼が考える日本代表監督の資質とは?

「いろいろあるとは思いますが、日本人らしさを世界に表現する力を持っている、勝負に出る時の武器をしっかり理解している、というのは大事だと思います。それから、日本の可能性をどんどん広げていく覚悟を持っているか」

 日本人らしさを理解し、日本の可能性を広げる覚悟を持つ。そうなると、日本人監督が適任に思えてくるが……。

「アギーレさんは『日本の可能性を信じているから来た』と言ってくれた。日本とメキシコは世界の中堅国ですが、勝つためのメンタルは同じで、日本人の可能性を引き出したいと言ってくれました。そういう気持ちがあるなら、外国人監督でもいいと思います。逆説的に言うと、サッカーを教えるだけの外国人指導者では難しい、というのが僕の意見ですね」

 そういって手倉森は、ある指導者の言葉を引用した。W杯南アフリカ大会でスペインを優勝へ導いた、ビセンテ・デル・ボスケの言葉である。

「代表監督はチーム編成と戦術を決めるだけじゃない。人間を教育できなければいけないと彼は言っていた。スーパースターと呼ばれるような選手も、1人の人間として扱わないと。それはどの国でも同じでしょう。その上で、信頼関係を築いていかなければならない」

 信頼関係を構築した先には、日本らしいサッカーがある。

「4年かけて準備すればベスト8は夢ではない」

 では、手倉森の考える「日本らしいサッカー」とは。彼は4つのキーワードをあげた。

「戦術的には柔軟性と割り切り。攻撃ならポゼッションができて、カウンターを繰り出せて、リスタートからも相手ゴールへ迫る。すべてを得点パターンにする。守備ならブロックを敷いた守り方も、前線からのプレッシングもできるようにする。攻撃も守備も何でもできる準備をして、状況に応じて使い分ける。自分たちのやりたいことに固執しない。それが割り切りというものです。
 
 それじゃあスタイルがないと言われるかもしれないけれど、実はそれこそが日本代表のスタイルだと思う。イビチャ・オシムさんがよく使っていたポリバレントという言葉は、ポリバレントな個人ではなくポリバレントなサッカーを指していたと僕は思う。それが日本代表の日本化ではないでしょうか。
 
 精神的には謙虚さとしたたかさ。『日本はまだ世界の中堅国』という気持ちで、チャレンジャー精神を忘れない。同時に、勝負どころでしたたかさを発揮する。相手の気持ちを読んでプレーする。そういうメンタリティーが必要でしょう」

 4年後のW杯カタール大会では「ベスト8以上を期待できる」と言う。

「西野さんが監督になってからの1カ月で、あそこまでやれたんです。選手たちがものすごいパワーを注いでくれたからではあるけれど、4年間かけてしっかり準備をすれば、ベスト8は夢ではないと思いますね。短期決戦ではチームのまとまりがとても重要ですが、日本人にはフォア・ザ・チームの精神がある。日本という国のため、日本国民のため、という思いで1つになったら、とてつもないパワーが出る。

 それと、カタールW杯は11月21日開幕です。ヨーロッパ各国リーグはシーズン中で、これがどう影響するか。ヨーロッパ各国と、主力選手の多くがヨーロッパでプレーしている南米各国は、ピークのコンディションで臨めないでしょう。日本もヨーロッパでプレーしている選手は多いですが、コンディショニングの繊細さでは世界に負けない。これまでの蓄積を生かせば、ロシア大会のように最後まで走れるサッカーができるはずです」

 ロシア大会の日本代表は、なぜベスト16までたどり着くことができたのか? なぜ、ベルギーに勝てなかったのか? これから日本代表は、どのような道を進むべきなのか? 日本サッカー協会はこれまで、日本代表の監督に何を求めてきたのか。

 手倉森の言葉も織り込まれた新刊『日本サッカー代表監督総論』は、その答えを探り当てる手引きになる。

書籍紹介『日本サッカー代表監督総論』

書籍『日本サッカー代表監督総論』 【(C)futabasha】

 ロシアW杯で戦前の下馬評を覆し、快進撃を見せたサッカー日本代表。しかし、決勝トーナメントでは、またしてもベスト16の厚い壁に跳ね返される結果となってしまった。本書は今後、サッカー日本代表が、どうすればW杯でベスト16の壁を突破し、さらなる上位進出を果たせるかに焦点を絞り、分析、提言を行なったものです。日本代表を現場で取材し続けて27年になるスポーツライター・戸塚啓氏が、サッカー日本代表初の外国人監督ハンス・オフト氏から、西野朗氏までのサッカーを分析。そして、華々しい船出を飾った森保一新監督が導くべき未来も提言する。

 経験豊富な外国人監督ではなく日本人監督でいいのか?

 森保JAPANで2022年カタールW杯ベスト16の壁を突破できるのか!?

 日本サッカーが進むべき道が見えてくる!

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著者プロフィール

1968年、神奈川県出身。法政大学第二高等学校、法政大学を経て、1991年より『週刊サッカーダイジェスト』編集者に。98年にフリーランスとなる。ワールドカッ1998年より5大会連続で取材中。『Number』(文芸春秋)、『Jリーグサッカーキング』(フロムワン)などとともに、大宮アルディージャのオフィシャルライター、J SPORTS『ドイツブンデスリーガ』などの解説としても活躍。近著に『低予算でもなぜ強い〜湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)や『金子達仁&戸塚啓 欧州サッカー解説書2015』(ぴあ)がある

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