ジョシュアが序盤の劣勢跳ね除け勝利 ヘビー級“米英頂上決戦”へ前進

杉浦大介

初回にピンチも華やかなKO勝利

ウェンブリースタジアムに85000人を集めて行われた防衛戦で7回TKO勝利を飾った王者アンソニー・ジョシュア 【Getty Images】

 序盤ラウンドには、思わず肝を冷やした英国人ファン、世界ボクシング関係者は少なくなかったのではないか。そしてその中には、来春の対戦が期待される米国人ライバルも含まれたに違いない。

 現地時間9月22日(以下同)、ロンドンのウェンブリースタジアムに85000人の大観衆を集めて行われたWBA、IBF、WBO世界ヘビー級タイトル戦で、王者アンソニー・ジョシュア(英国)は挑戦者アレクサンデル・ポベトキン(ロシア)に7回TKO勝ち。ただ、そこに至るまでは必ずしもスムーズではなかった。

 初回にポベトキンの左フック、右アッパー、左フックという3発のコンビネーションを浴び、思わずバランスを崩すシーンがあった。その後もこの日まで34勝(24KO)1敗のチャレンジャーの右クロスに手を焼き、なかなかはっきりとペースを奪えなかった。

 万が一にでも王者が敗れるようなことがあれば、英国の英雄を看板に据えて新たなボクシングシリーズをスタートさせたライブ動画配信サービス「DAZN USA」にとっては大誤算。ジョシュアとの4団体統一戦というビッグマネー・ファイトを熱望するWBC同級王者デオンテイ・ワイルダー(米国)も、序盤は気が気ではなかっただろう。

 しかし、迎えた第7ラウンド。ロンドン五輪のスーパーヘビー級金メダリストは、スタミナを失い始めた2004年のアテネ五輪金メダリストにパワーの差を見せつける。

 この回も約1分40秒を残したところで右ストレートでダメージを与え、その後に左フック、右で追い打ちをかけると挑戦者は痛烈にダウン。再開後にジョシュアはすかさず連打をまとめ、ポベトキンが崩れ落ちるところでスティーブ・グレイ・レフェリーがストップをかけた。立ち上がりには鼻骨骨折を疑われるほどの鼻血も流したジョシュアだったが、華やかなフィニッシュは千両役者の貫禄十分だった。

強敵を相手に成長を続ける王者

序盤の劣勢も、冷静に相手のスタミナを奪っていったジョシュア(右)。22戦のキャリアの中で成長を見せている 【Getty Images】

「(挑戦者は)顔面は打たれ強いが、ボディが弱いことは分かっていた。だから頭ではなくジャブで腹を狙ったんだ。おかげで彼をスローダウンさせられた。7、9回、あるいは12回までかかったとして、今夜の究極の目標は勝つことだったんだ」

 試合後、テレビ局のリング上インタビューでそう述べた通り、ジョシュアは単に力任せに39歳の老雄をなぎ倒したわけではなかった。スキルに定評ある挑戦者が元気なうちにボディにジャブを突き刺し、スタミナを奪い取る。同時に相手のガードが下がったところで、サンデーパンチの右で致命的なダメージを与える。一見すると苦戦で、実際にすべてが計算づくだったわけではないとしても、豊富なアマ歴を誇るベテランを徐々に弱らせた上での勝利はプラン通りではあったのだろう。

「2、3年前だったら勝てなかったかもしれない。しかし、私を向上させてくれた陣営を評価してほしい。上達することが大事。勝ち、そして学んでいくんだ」

 試合後のそんなコメント通り、王者はこの試合でまだ成長中であることを印象付けた。22戦のキャリアで、すでにディリアン・ホワイト(英国)、ウラディミール・クリチコ(ウクライナ)、カルロス・タカム(カメルーン)、ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)、そしてポベトキンという強敵を撃破。特に17年4月のクリチコ戦で強烈なダウンを喫しながら、その後に倒し返して勝ったことで得た経験は大きかったに違いない。おかげで今では多少の被弾があっても、事前の作戦を冷静に遂行する落ち着きと自信を備えている。タフネスの不安ゆえに依然として難攻不落のチャンピオンには思えないが、それでも現代ヘビー級の雄がハイレベルの技術、パワー、適応能力、スター性を備えた好ファイターであることは間違いあるまい。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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