投手二冠に突き進む広島・大瀬良大地 「いい人」から「頼もしい」エースへ

ベースボール・タイムズ

調子が悪い時こそ…先発としての責任感

14勝目を挙げた8月25日の中日戦では磯村(写真右)とともにお立ち台へ。今季コンビを組むことが多い恋女房との息はバッチリだ 【写真は共同】

 自身の言動も変わってきた。「調子云々ではなく、最低でも7回まではしっかり投げようという気持ちでマウンドに上がっている」と、先発投手としての責任感を自覚する。

 今季は4月29日の阪神戦から6月8日の東北楽天戦まで、登板試合全てに勝ち星が付く7連勝を記録した。7試合中6試合で7イニング以上を投げ、完投も2試合あった。さらに8月4日の横浜DeNA戦から9月1日の東京ヤクルト戦まで引き分けを挟んで4連勝したが、この時は途中2試合でいずれも7回途中降板となり、結果への不満からヒーローインタビューでは笑顔を見せないこともあった。

 冒頭の14勝目を挙げた中日戦は「軸になる球がなかった。引っ掛けたり、スライダーが抜けてしまったり、ボール先行になってしまった」と状態は最悪。「それでもマウンドには上がらなければいけない。調子が良くないと思ったままで、打者と対するのが一番良くない。目をつむって、心を落ち着かせながら投げた」と、粘りの投球で7回を投げ切り、2失点で勝利投手となった。

 長いシーズン、常に好調を維持することは不可能に近い。「調子が悪い時こそ、どういう投球をするかが大事になる」。この意識を持ち続けることが、コンスタントに勝ち星が増える結果につながった。

後輩の女房役・磯村を立てる動きも

 14勝目の試合後には、報道陣なども含めた周辺が最も変わったと感じた出来事があった。ヒーローインタビューで、大瀬良は捕手を務めた磯村嘉孝とともにお立ち台に上がった。しかし、この日の磯村は1安打で犠打も決めたが、いずれも得点には結びつかず、守備でも際立ったプレーを見せたわけでもなかった。そんな磯村がお立ち台に立ったのは、大瀬良が希望したからだったという。

 インタビューが終わった後、報道陣に囲まれた大瀬良は「イソ(磯村)も配球がしんどかったと思うが、強気なリードをしてくれて、なんとか助けられながら投げることができた」と、今季コンビを組むことが多い恋女房の好リードに感謝した。

 磯村は今季、開幕から大瀬良が先発した5試合連続でスタメンマスクをかぶり、途中に2軍降格などもあったが、8月11日からはコンビを復活して現在に至っている。シーズン序盤も、大瀬良は勝利後のコメントで磯村の名前を出すこともあったが、半ば強引にお立ち台に誘い、後輩にもスポットを当てようとする行動は、これまでにないものだった。

 報道陣の取材を断ることもなく、常に真摯でソフトな対応の大瀬良は「いい人」ではあるが、どこか「物足りない」印象もあった。そんな姿勢は今も変わらないが、今季、勝ち星を重ねるたびに自信に満ちていく表情には、いつしか「頼もしい」が加わっていた。

 前田健太がメジャー移籍し、黒田が引退した後、チームは「エース」と呼ばれる投手が不在の状態が続いている。大瀬良が今季、投手二冠のタイトルを獲得し、その右腕でチームを悲願の日本一に導く投球を見せれば、「周りの人が決める」エースの座は決定的なものになる。

(大久保泰伸/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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