阪神・岩崎、もがく期間を進化の礎に 「人のために」ストイックに歩む野球人生

週刊ベースボールONLINE

起用法に愚痴は一切ない

苦しい場面での登板が続いても、「愚痴は一切ない」 【写真:BBM】

 岩崎は今季も救援陣の一角を任され、9月5日時点で49試合登板の防御率4.74。2週間超の出場選手登録抹消期間がありながら、ここまでチーム最多登板とフル回転を続けている。しかも、過酷なタイミングでマウンドに上がるケースがここまで目立っている。時には絶体絶命の無死満塁で登場。かと思えば、先発投手が打ち込まれた試合では序盤からイニングまたぎを敢行……。ついつい後ろ向きな感情が芽生えてもおかしくない役割が続く中、「愚痴を言ってくれ、と言われても、一切ない、と答えられますよ」とほほ笑む。

「ほかの球団には、もっと投げている人たちもいますからね。そもそも、どんな状況でも誰かがマウンドに行くしかない。ブルペンの中から選んでもらって登板するんだから、なんとかそこで期待に応えたいと考えるのが当たり前かなと思いますけどね。登板が決まる電話がベンチからかかってくるまでは、どこで投げるのかなとドキドキするものですけど、いざ電話が鳴ればマイナスな気持ちはまったくなくなりますよ」

 苦境でマウンドに上がれば、直前の投手が背負った走者をホームに返してしまうパターンも当然出てくる。どれだけタフな心の持ち主でも心身ともに疲労してしまうものだ。登板して失点した後、例えば翌日の試合前練習中に香田勲男投手コーチから声をかけられることもある。「昨日は悪かったな」。そんな気遣いの言葉には、「逆に、抑えられなくて申し訳ありませんでした」と返す。ピンチで救世主と化した直後、ベンチに戻って首脳陣から労われたときは「使ってくれてありがとうございました」と感謝する。偽らざる岩崎の本心だ。

「もちろん調子が悪いときだって、今日はヒジが張っているなというときだってあるけど、行けと言われたところで行くのが仕事ですから。その日抑えられる球種で頑張るしかないと思っています。やられてしまったときは、走者をかえして前の投手の防御率を悪くしてしまって申し訳ない、使ってくれた監督、コーチの期待に応えられなくて悔しい、という気持ちに当然なる。そういうときは、次こそは頑張ろう、それだけです」

もう1度自分の長所を見つめ直し

 思い返せば、今年はスタート地点から難しい調整を強いられてきた。昨季はセットアッパーの一員として66試合登板で防御率2.39。抜群の安定感を買われる形で、オフには先発転向プランが本格化した。先発ローテーションの人員が足りない場合に備え、冬場から黙々と先発調整を継続。シーズン開幕まで1カ月を切っても2軍で先発マウンドに上がり、正式にリリーフ起用を告げられたのは3月中旬だった。

 先発か救援か。長く続いた「どっちつかずの状況」が影響したのか、シーズンに入ると本来の制球力、力強さを欠く場面も少なくない。それでも、岩崎本人は不調の要因を外的なものに押しつけることは絶対にしない。「中継ぎに戻るかもしれないのは最初から分かっていたことですし、シーズン最初はそこそこすんなり入れたわけですから、単純に自分の力不足だと思いますよ」。そう潔く自戒して、今はもう1度自分の長所を見つめ直している。

 虎の背番号67といえば、粘り気のある独特のフォームが有名だ。下半身をグッと沈み込ませ、可能な限りリリースポイントを打者寄りに近づける。あまりに重心低く前でボールを離すがゆえに、腕を振り切った際、左手中指でマウンド上の土をかいてしまうときもあるほどだ。高性能レーダー弾道測定器「トラックマン」を使いこなす他球団スコアラーによれば、岩崎の140キロ前半ストレートは打者の体感速度が156キロ。プロ12球団に所属する全投手の中で、もっとも打者寄りでボールを離しているという。

 実はこのフォームは自然に作り上げられたモノらしい。「中学校のときなんか、本屋で野球雑誌とかを立ち読みしていて、こういうフォームだったら格好いいのにな、変えたいなと思ったりしていましたもんね」。高校時代は毎夜のように誰もいないグラウンドでシャドーピッチングを続けた。時には棒状のフォーム矯正器具「なげる〜ん」を夜遅くまで1000回連続で振り続けた結果、いつのまにかリリースポイントが打者に近いフォームができあがった。

「だから今、野球教室とかで少年に『どうすれば、そんなフォームになれますか?』と聞かれても、きちんと答えられないんですよね……」

 確固たる知識、理論の基に作り上げられたフォームではないだけに、まだまだ改善の余地はあると岩崎は言う。今年、唯一無二のフォームは試行錯誤の時期に入っている。

「今年は打たれてもボール自体はそんなに悪くないことが多いんです。なのに、打たれたり、ファウルを取れていたボールで取れなくなったりしているということは、球持ちや下半身の粘りに原因があるんじゃないか、と。自分はフォームで戦っている投手なので、それができなくなれば終わる。もう1度勉強するいい機会かもしれない。まだここをこうすればこうなる、というものがない。自分のフォームを見つめ直す、いい機会かもしれないと思っています」

大切にしているトルストイの言葉

 もちろん、フォームだけではない。岩崎は最近、特に試合中のブルペン待機タイムを貴重な時間だと考えている。球界屈指の技術と経験を持つ能見篤史、藤川球児の一言一句に聞き耳を立てている。

「もっと打者を観察したり、もっと状況とか点差も考えられるようにしないといけない。打者がこういう反応をしているから、このボールを投げよう、とか。やっぱり投球には頭脳も必要だなと思う。能見さんや球児さんが映像を見ながら才木(浩人)や望月(惇志)に言っていることからも、ヒントをもらっています」

 苦しみもがく期間を必ず進化の礎にしようと貪欲になっている。

 岩崎には大切にしている格言がある。「人生の唯一の意義は、人のために生きることである」──。ロシアの小説家、思想家であったトルストイが残した名言だ。

「人のために……。僕もそういう人生にできたらな、とは思います。だから打たれたときは使ってくれた人、応援してくれている人に申し訳ないなと思うわけですしね」

 シーズンもいよいよ終盤。岩崎はチームが苦境に立たされれば、どれだけ疲れていようとも喜んでマウンドに向かう。誰がために──。変わらぬ信念があれば、余計にストイックでいられる。

(文=佐井陽介/日刊スポーツ新聞社)

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