“二刀流”目指す次世代ホープ・御家瀬緑 アジア大会の経験を夢実現への原動力に

高野祐太

高校歴代6位までタイムを伸ばす

昨季から今季にかけて爆発的にスプリント力がアップし、アジア大会の代表に選ばれるまでになった 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 高校1年だった昨季、御家瀬は急速に日本代表への階段を駆け上がり始めた。あれよあれよと言う間に『シンデレラガール現る』という印象だ。というのも、春先に1本出場した100メートルは天候不順で流し気味にしか走れなかったり、高校生にとって最高の舞台である8月のインターハイで100メートルには出場していない。同じ高校の先輩や同級生にも速い選手がいて、御家瀬は地区予選からもう一つの得意種目の走り幅跳びに回っていた。そのため、当然、大舞台で100メートルの力を示すチャンスはなかった。なにしろ、この時点での自己記録は平凡な12秒台に過ぎなかった。

 だが、御家瀬は、大きな成長ぶりを7月の時点で垣間見せている。7月9日に札幌市で行われた南部記念で、2.7メートルの追い風参考ながら11秒70の好タイムで走った。御家瀬らしい走りで後半にグーンと伸びていった。

 御家瀬が振り返る。
「自分ではいつも通り走っていたつもりなんです。リラックスしては走れていたけど、特別良いという感覚はありませんでした。なので、走った直後にはあんなに良いタイムが出ていたとは全然思いませんでした」

 自分でも気づかないうち、若竹の成長のように、爆発的にスプリント力がアップしていたことになる。

 急成長が公認記録で明確になったのは、その秋になってからだ。

 9月の全道高校新人で向かい風1.3メートルの中で11秒83の自己新。10月の国体少年B100メートル準決勝では高校歴代7位タイの11秒66(+0.7)を出した。これは、福島の高校3年の記録を100分の1秒上回るものだった。

 歴代最速の福島“超え”。昨シーズン終盤になってから、がぜん、関係者の間で御家瀬への注目度は上がった。

 そして今季に入ると、6月の北海道高校陸上で優勝して記録を高校歴代6位の11秒63まで伸ばした。8月のインターハイ本番でも初優勝(11秒74/±0.0)を果たし、日本選手権、そしてアジア大会へとつなげた。

高校1年までは走り幅跳びが専門

5位という結果に、世界との差を見せ付けられた日本女子。しかしこの経験が今後の原動力になるはずだ 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 こうして、100メートル選手としての御家瀬に注目が集まるが、中学までは走り幅跳びの方が結果を出していた。

 中学3年の全日本中学は100メートルが準決勝敗退だが、走り幅跳びは4位に入っている。今季も100メートルの練習が中心だったが、インターハイでは6位に入賞した。
「100メートルも幅跳びも同じくらい好き。幅跳びは100メートルのように相手と並んで競争するのではなく、自分との戦いと言いますか。マイペースにできるところがいいです」という。「空中動作で踏み切った逆の足が下がってしまう」という課題も自覚している。

「スピードを上げて、いかに躊躇(ちゅうちょ)しないで踏み切れるか」という意識で跳躍し、自己記録は昨年の国体少年Bで優勝したときに大台に乗る6メートル00に達している。

 100メートルの走力アップを生かし切るというイメージが、今の御家瀬を貫いている。将来についても「自分の100メートルのスピードがどんどん上がっていて、そのスピードが幅跳びの助走にも生かせたら誰にも負けない武器だと思うので、100メートルと一緒に成長できたらいいなと思います。将来的に2種目をやるのは簡単ではないので、どちらかに専念することになるかもしれないですが」と考えている。

 短距離走と走り幅跳びの“二刀流”で切り開く将来のビジョン。中村監督の長期的な指導計画も同じだ。
「これだけの助走スピードを持った走り幅跳び選手はそうはいない。小手先の技術ではなく、基本のスピードを伸ばしていくことが走り幅跳び選手としてのスケールを大きくするためにも大事で、将来、スプリンターとしてだけでなく、ロングジャンパーとしての可能性も広がる。今年は上がったスピードに対応できるほどの練習をさせていないので、100メートルほどの結果が出ていなくても気にしていません」

 御家瀬の高校3年までの目標は、100メートルが「11秒43の日本高校記録を抜くこと」で、走り幅跳びが「まずは6メートル2ケタ台に入ること」。五輪には「いつかは出てみたい」と夢を描いている。好きな佐藤多佳子さんの小説『一瞬の風になれ』を読んだときにも、そんな自分を重ね合わせたためか、「ワクワクして読んだ」という。御家瀬の“二刀流”ビジョンは、夢実現のための大きな原動力となる。

 その夢の第一歩となったアジア大会は、初めて世界を体感することになった。1走としてミスのない走りを見せたが、まだまだ走力で他国のトップ選手に差を感じたはずだ。この経験も、今後の夢実現への原動力に変わるだろう。

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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