中日・平田良介、三十路の華麗なる変身 長所と引き換えに優先した大切なモノ
シーズンを戦い抜くための“最良の体”
8月16日にはサイクル安打を達成するなど、1番起用が大当たり。チームの得点増に大きく貢献している 【写真は共同】
「減量がバッティングにもたらした効果? ないですね。バッティングに関してはないです。やっぱり飛距離は落ちていますから。でも、体にはいいんです。おそらく去年の体重のままプレーをしていたら怪我をしていたと思います」
驚くほどあっさりと認めたのは、誤って伝えられるのを嫌ったからだろう。一部では「減量が体にキレを生み、打撃を向上させた」との勝手な見方をされているが、減量の目的はあくまで故障を未然に防ぐため――。安易に減量をこじつけられたくなかったのは、スラッガーとしてのプライドによるものだろう。長所を引き換えにしてでも優先させた“大切なモノ”。それはシーズンを戦い抜くことを可能とする“最良の体”である。
平田が故障に泣いたのは昨季に限らず、これまで右肩や腰、足首などの度重なる怪我も影響して全試合出場を果たしたシーズンは一度もない。日本代表にも選ばれた実績を持つ背番号6は紛れもなくドラゴンズの主力選手だ。一方でシーズンを全うできないというマイナスのイメージから、懐疑的な目で見られていたことも確か。真のレギュラーとしてはいささか物足りなさは否めなかった。
飛距離を担保できる体重を維持したまま、走塁や守備の面で力をセーブすれば、怪我は防げたのかもしれない。しかし、平田がその手段を選ばなかったのもまた、走塁と守備において譲れないプライドがあるからだ。
1番による意識の変化は「多少はある」
平田が1番で出場した12試合の得点は60。1試合平均に換算すると、それまでの4.06点から5点へと跳ね上がっている。この得点力はセ・リーグの他の5球団のシーズン通算と比べると、カープの5.14点に次ぐ数字。平田はチーム2番目の4割1分9厘を誇る出塁率で好機を演出すれば、得点圏打率3割6分4厘と持ち前の勝負強さも健在。本塁打数こそ伸び悩んでいるとはいえ、先頭打者弾を2発放つなど長打率は4割7分。大島洋平も1番打者として高い能力を持つが、相手投手に与えるプレッシャー、“長打への警戒度”という面では平田が勝っている。そして、1番打者の役割を理解して、平田は打席に立っている。
「(打順による意識の変化は)多少はありますね。自分のバッティングスタイルを変えるのではなく、その状況を踏まえてということはある。状況判断という点において1番のときと4番以下のときでは変わってくる」
「1番・平田」の効果によって得点力が上がったのは偶然ではなく必然。リードオフマンとしての頼もしさは日に日に増し、まるで攻撃の道筋をつけているかのようにさえ感じさせる。
シーズンは残り27試合。6年ぶりのクライマックスシリーズ進出に向けて依然、厳しい現実に変わりはないが、平田が先陣を切る新たな強竜打線は希望の灯となっている。“奇跡”を諦めるのはまだ早い。変身を遂げた背番号6が鳴らす快音とともに、可能性がゼロになるそのときまで信じてみたいと思う。
(高橋健二/ベースボール・タイムズ、データは8月26日終了時のもの)