「航空後進国」を変えた1人のエース 室屋義秀と日本スカイスポーツの4年間
浸透した「エアレース」の名
日本人で唯一エアレースに参戦する室屋。競技の認知度向上に、日本で果たした役割は大きい 【写真:Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool】
「日本人が強いっていうのが良いよね!」
観戦に訪れたファンがいかにも感慨深げに語ってくれたのは、レッドブル・エアレース第3戦(5月26、27日)千葉大会でのこと。日本人唯一のシリーズ参戦者で「空ゆくサムライ」と呼ばれる室屋義秀は昨年ここで大会2連覇を達成し、その勢いのまま初の年間王者に輝いた。今年は残念ながら決勝のラウンド・オブ・14で敗退してしまったものの、第4戦を終えた時点でシーズン5位と上位につけている。
4年連続の日本開催となった千葉大会は、2日間で約7万人もの観客を集める大盛況ぶりだった。約4320メートルという日本一の人工海浜である幕張のビーチでは、室屋以外のパイロットへの声援も多く、エアレースへの関心は日本でかつてないほどに高まっている。
「皆さんのスポーツとしての認知は飛躍的で、1年目から今と比べると、まったく考えられないほど。数百倍、数千倍、いやもっとかもしれません」。レース後、室屋はこの4年での変化をしみじみと語っている。
「安全なの?」から始まった千葉大会
当初は安全面を懸念する声もあがったが、今では市民も毎年楽しみにするイベントに成長した 【写真:松山ようこ】
千葉大会初年度から運営に携わっている、レッドブル・エアレース実行委員会の立川智宣さんは充実感をにじませる。「初年度から3年で30万人を動員しました。最初は『安全なの?』という声があるなかから始まりましたが、安全面のテストはすべてクリアし、今では行政ふくめて多方面からサポートしていただくようになりました」。
今年は滑走路の近隣にホテルが建設されたことで、「エアレース開催危機」のニュースが一時話題となった。これについても、「きちんと国交省の指導のもと、安全の手順をどんどん踏んでいって、順当な申請をしていました。あれは最終的な許可証が発行される前に報道されたので、ちょっと驚きましたが、こちらとしては急に実現したようなことは何もないんです」と内情を明かす。
果たして今年も無事に開催されたエアレース千葉大会。今では市民も毎年楽しみにするイベントに成長した。アクセス最寄りの海浜幕張駅を出ると、千葉市による臨時の観光案内所がすぐに目につき、会場までの街路灯にはウェルカムバナーがはためく。市の関係者から市民まで、多くがボランティアで参加していた。ビーチでゴミ回収のテントにいた女性は、「エアレースがタダで見られるからね」と笑いながらボランティア参加の理由を語っていた。
これまで19カ国で80戦以上を行ってきたエアレースは、世界中で生中継されるコンテンツだ。日本にいると気がつきづらいかもしれないが、実は4年連続で開催した“CHIBA”の名は、今や「世界随一のスカイスポーツ都市」として知名度を上げた、と関係者らが声を揃える。
千葉市長の熊谷俊人氏は、「千葉県の市民の有志の皆さんによって誘致、開催の支援まで、自分たちの街を盛り上げていこうというムーブメントを起こして進めてきました」と振り返り、この官民連携の経験が2020年東京五輪の財産となると手応えを語る。千葉市によると、エアレース開催の経済効果は、100億円超。6年をかけて誘致してきた過去があるといい、今後も継続開催を期待しているという。