ロッテ・井上晴哉“春男”返上の理由「過去の僕からすると怖いものはない」

週刊ベースボールONLINE

5年目の今季、主砲として開眼したロッテ・井上晴哉。“春男”返上の理由を語る 【写真:BBM】

 景気よく打つのは春先だけの“春男”。そんな汚名を返上し、ついに完全覚醒を果たした。上位進出を狙うカモメ軍団の新たな4番として、ねじ切れんばかりのフルスイングでマリンの観客を沸かせる男が覚醒した理由とは。

指揮官の言葉が飛躍のきっかけに

 チームが待望する右の大砲。誰もがその眠れるポテンシャルを認めながら、5月の声を聞くころには毎年のように失速。そんなシーズンを繰り返してきた。しかし、勝負の5年目。千葉ロッテ・井上晴哉はついに“春男”から脱皮し、完全覚醒を果たした。

――今季は手応えを感じているのではないでしょうか。

 充実はしていますね。新体制になってチームの雰囲気も明るくなりましたし、金森(栄治)さんが打撃コーチになって新しい発見もありながら、これまで自分がやってきたことにプラスして、今は結果を出すことができています。

――これまで春先だけの“春男”と呼ばれてしまうこともありました。

 今年もいつもどおりの展開になってしまいましたね。4月の終わりくらいから5月中旬くらいまで、みんなの(“春男”になるという)期待に応えて、(成績で)期待を裏切ったんですけど(笑)。一番大きかったのはメンタル面です。“1・5軍”と言われるような選手の1人でしたから、結果を出さなければファーム行きになってしまう。その中で自分を見失っていたんです。結果だけを追ってしまうと、自分のやりたいことが二の次になってしまいますから。これまでも2軍では怖いものがなかった。それなのに、なぜ上で同じことができないかといったら、結果しか見ていなかったから。だから今年は、同じ危機感を抱きながらも期待されて試合で使ってもらえている、というのが本当に大きいです。

――技術面では変化や進化があったのでしょうか。

 金森コーチやいろいろな人の話を聞きながら、井口(資仁、監督)さんにも直接アドバイスをもらって復調することができましたね。

――どんなアドバイスですか。

「とらえるポイントをしっかり押さえれば、大きく崩れることはない」ということですね。金森コーチにはボディターン、(体の軸回転で)一気に回れという指導をしてもらっているのですが、調子を落としていたときは体を回すことばかりを意識し過ぎてしまい、振り過ぎてしまっていました。ボールをとらえる瞬間ではなく、振ったあとのほうが力が入っていたような感覚で。そんなときに井口さんから「ベースの上だけを意識すればいいんじゃないか」と言われたんです。「ベース板の上の前後にボールを2個置くイメージで、シンプルにそのボールの間だけ強く振ることを考えろ」と。

――監督の言葉が大きなきっかけになったのですね。

 とにかくベース板の上にボールを呼び込んで、そこでだけ力を入れる。ボールをとらえる瞬間にだけ集中するということです。井口さんには「フリーバッティングも遊び感覚でいいんじゃない」って言われましたね。「真面目に打ち過ぎだよ」って(笑)。もちろん冗談めかしてですけど、それくらいの感覚で打てということだと思います。

ゴロは打たない、打球を上げる

 井口監督の、そして金森コーチの教えを吸収しながら、覚醒のきっかけを手にした。一度つかんだ打撃の感覚は、早くも体にしっかりと染み込みつつあるようだ。

――右方向への意識を口にしたこともあります。

 そこはあまり意識していないですね。自然にバットが出れば、ボールのコースに対して飛んでいく。どっちに打とうとか小細工をしているとスイングの感覚がおかしくなってしまいますから。ただ、結果としてセンターから右方向へ強い打球を飛ばすことが、自分がやりたいバッティングですし、実際その方向にホームランも出ているので、いい方向に打球が飛んでいると思います。

――ベース板の上でだけ力を入れる感覚ということですが、実際のスイングは昨季までよりも振り切っているように見えます。

 それは結果の話ですね。ボディターンを意識し過ぎたと言いましたけど、金森コーチの助けを借りながら昨秋からボディターンを使ったバッティングという土台をしっかり作ってきました。ボディターンがなければ手先だけになってしまいますから。ボディターンという土台、下半身の使い方があるから、ベース板の上で下半身から上半身へ伝わる力をボールにぶつけられるし、体重をぶつけることができるから、ボールを押し込めて打球が伸びる。インパクトのあと、力は入っていないですが、ボディターンを使ったスイングの結果として振り切っているように見えるのだと思います。

――ホームランの数も増えています。ホームランへの意識はありますか。

 ゴロを打たなければホームランになるかもしれない。調子が悪いときは金森コーチに「おい、ゴロ転がすな!」って言われるんです。そこで「どうやって打球を上げようかな」と考える。ゴロを打たなければ、当たりどころが良ければホームランになる。井口さんにもシーズンの最初に「ツーベースくらいでいい」って言われましたし、基本的にホームランを狙っているわけではありません。ただ、ゴロは打たない、打球を上げるということは意識します。

――ボールの見極めという部分でも、ストライクゾーンのボールをしっかりとらえられています。

 金森コーチからも「低めはガッと止まれ!」と言われていますね。ボール球に手を出していると打撃が崩れてしまう、と。ただ、自分の中ではベース板の上でとらえられるボールを打ちにいっているだけなんです。見逃すというより、「これは打てない」「ヒットにはできない」と思ってスイングをやめると結果的にボールになる。昔、長嶋茂雄さん(巨人・終身名誉監督)が「打てるボールがストライクだ」とおっしゃったという話を聞いたことがあるのですが、失礼ながら最初はちょっと笑ってしまったんです。でも、今の自分の感覚はかなり近いところにあるのかもしれません。

――打撃面でのきっかけをつかんだタイミングで、へんとう炎により6月13日に出場登録を抹消されました。ただ、同23日に復帰して以降は8月2日時点で打率4割0分2厘(92打数37安打)、11本塁打と絶好調です。

 へんとう炎のときも体調は悪かったのですが、体力はどんどん回復していく感覚がありました。疲労が抜けていくというか。これまで長く1軍で試合に出続けたことはありませんでしたから、体力もなかったんでしょうね。ただ、打撃面が落ちる気はまったくしなかった。2軍戦で復帰しても感覚はいいままで、それが継続できているという感じです。

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