【UFC】因縁深い2人によるバンタム級王座戦 絶対王者ジョンソンの防衛記録更新は!?

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「UFC 227」では王者ディラショー(右)と挑戦者ガーブラントのバンタム級王座戦が行われる 【Zuffa LLC】

 日本時間8月5日(日)に開催される「UFC 227」のメインイベントでは、UFCバンタム級王者T.J.ディラショー(米国)と挑戦者コーディ・ガーブラント(米国)のタイトルマッチが行われる。

ライバル対決、前回はディラショーに軍配

 ほんの5年前には、チーム・アルファ・メールの同門で練習仲間だったガーブラントとディラショー。ところが2015年にディラショーがチームと袂(たもと)を分けたことをきっかけに、両者は記者会見やメディアで顔を合わせるたびに、お互いを激しく非難しあう関係になっていく。2人が敵対するチームのコーチに就任した「ジ・アルティメット・ファイター(TUF)・シーズン25」(米国で17年に放送)では、罵りあったり、時には手を掛け合ったりするシーンも描き出され、緊張関係は沸騰寸前にまで高まった。

 そんな両者のタイマン勝負は昨年11月、「UFC 217」でバンタム級タイトルをかけて実現した。第1ラウンドは当時の王者ガーブラントが試合を優勢に進め、ラウンド終了間際にはディラショーから先にダウンを奪う。しかし、第2ラウンドになると別人のようにフットワークを変えたディラショーの右フックがさく裂、倒れたガーブラントに追撃のパウンドで襲いかかり、2分41秒、ディラショーが逆転勝利の雄叫(おたけ)びを上げたのだった。



 ディラショーにとっては、16年にドミニク・クルーズ(米国)に敗れて手放したベルトの奪還に成功したことになる。他方で、そのクルーズに勝って王者になったガーブラントは、この試合でプロ初黒星の苦杯をなめたのだった。

舌戦封印、ガーブラントの秘めた闘魂

昨年11月の「UFC 217」ではディラショー(写真)が勝利し、バンタム級のベルトを取り戻した 【Zuffa LLC】

「TJがチームから出ていってくれたことで、自分の人生からネガティブ要素の大掃除ができた。ガンを切除した気分だ」と表現したり、「TJがジムからジムへとわたり歩く様子は、まるでコーチやトレーニングパートナーを探し求めて街角に立つ娼婦(しょうふ)のようだ」と言ってみたり、前回の対戦前には罵詈雑言(ばりぞうごん)を極(きわ)めていたガーブラントだが、今回は舌戦を封印、真摯に取材に応じている。

「実は前回の試合では腰の調子が最悪だった。ただ、妻が妊娠をしていたし、家を買う予定もあった。それに、あのマディソン・スクエア・ガーデンで、ジョルジュ・サン・ピエール(カナダ)も出場するイベントに、オレは世界王者としてブッキングされていたんだ。責任も感じたし、正直、この稼ぎ時を逃す余裕はなかった。だから試合の2週間前に、オレは腰に麻酔の注射を8本打って、出場を強行したんだ」

 そう明かすガーブラントの一方で、「今回は随分静かだな」と語るディラショーは「さすがにノックアウトされた直後に大きな口はたたけないのだろう」と余裕を見せつつ、こちらは言いたい放題だ。

「僕は今回、バンタム級でのコーディのキャリアを終わらせてやろうと思っている。タイトルマッチに2回連続で失敗するというのは、そういうことだろう?」

「またコーディをノックアウトして、金持ちになってやる。いい気分だよ」

「個人的にはコーディを気の毒に思っている。だってこの確執は、彼本人とは関係ないからだ。彼はむしろ、チームを背負わされているんだ」

 高ぶるディラショーに対し、沈黙を貫くガーブラント。ライバルストーリー第2章はいったいどんな展開を見せるのか、注目だ。

絶対王者ジョンソン、連続防衛記録更新へ

ガーブラント(左)は今回は舌戦を封印し、試合に臨もうとしている 【Zuffa LLC】

「UFC 227」のセミメインイベントで実現するのはUFCフライ級タイトルマッチ、王者デミトリアス・ジョンソン (米国)と挑戦者ヘンリー・セフード(米国)の一戦だ。

 ジョンソンは前回、「UFC 216」(17年10月)で迎え撃ったレイ・ボーグ(米国)戦で、ボーグの体をスープレックスで投げとばしつつ、空中でアームバーを極めてフィニッシュするという、見たこともないような離れ業で勝利を挙げ、11回連続タイトル防衛というUFC新記録達成に華を添えた。

 セフードとジョンソンのタイトルマッチは再戦になる。「UFC 197」(16年4月)で行われた初戦では、第1ラウンド3分弱、ジョンソンがセフードのボディにヒザ蹴りを連発し、あっさりとノックアウト勝ちを収めている。

 現在13連勝中のジョンソンはこれまでに、フライ級ランキング上位15選手のうち、7選手を下している。勝ったとはいえやや手こずった3選手(ジョセフ・ベナビデス、イアン・マッコール、ジョン・ドッドソン)とは再戦に臨み、いずれも初戦よりも簡単かつ完全に勝ち直した。31歳のジョンソンは、いまだにほかの選手よりも速いスピードで進化していて、追いかけようとしても、誰も追いつけないのが現実なのだ。

五輪金メダリスト、意地の逆襲へ

 そんな絶対王者ジョンソンの首を取るという一大事業に、セフードはエリートアスリートとしての意地とプライドをかける。

「自分はもう31歳で、MMAに転向して5年半がたった。やっとMMAファイターになった実感がある。これまでよりずっとスマートになったし、スピードも付いた。上達したことを認めてもらったからこそ、前回あんなに簡単に負けてしまったにもかかわらず、今回2度目のチャンスが与えられたのだと思っている」

 そう話すセフードは08年北京五輪、フリースタイルレスリングの金メダリストだ。21歳での金メダル獲得は米国のフリースタイルレスリング史上最年少記録である。MMA転向は13年、UFC入りは15年。そして16年には早くも、10勝0敗の戦績をひっ下げて、ジョンソンのタイトルに挑戦したのだ。セフードは前回の試合について「まだまだファイターとして成長中の時期だった。ある意味、順調に行き過ぎていたからね」と振り返っている。

「ジョンソンを倒すべく、ブラジルやヨーロッパ、アジアに飛んで、コーチやトレーニングパートナーを捜し求め、練習を積んできた」とセフードはジョンソンに照準を合わせたトレーニングを積み上げてきたことを明かしている。

「地獄の苦しみに身を投じるのだとしたら、今回がその時だ。自分の体で犠牲を払うなら、ジョンソンに払う。今回彼に追いつけなければ、もう2度と追いつけないと思っている。チャンピオンになりたいというよりも、ジョンソンに勝ちたいんだ」

 今回のディラショー対ガーブラント戦およびジョンソン対セフード戦の結果によっては、ついにバンタム級とフライ級の両階級チャンピオンが拳を交える展開もあるのでは、ともウワサされる。軽量級世界最高峰の戦い絵巻と、交差する人間模様から目を離すことができない。

(文:高橋テツヤ)
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