打者・大谷の前半戦を振り返る<前編> MLBでもトップクラスの打球速度

丹羽政善

大谷の打球速度と角度

メジャーでもトップクラスの打球速度を誇る大谷 【Getty Images】

 なお、大谷が前半で放った全本塁打の打球初速、角度を確認しても、本塁打になるべくしてなっている。

1号(4月3日):104.5マイル、34.7度
2号(4月4日):100.0マイル、26.1度
3号(4月6日):112.4マイル、25.7度
4号(4月27日):112マイル、23.0度
5号(5月10日):108.7マイル、31.3度
6号(5月17日):102.8マイル、27.9度
7号(7月8日):108.8マイル、24.2度
※『baseballsavant.com』のデータをもとに作成

 ただ、実のところ、大谷の平均初速ならもっと打率が高くてもおかしくないし、もっと本塁打が出ても不思議ではない。データをたどれば、打球の初速を活かしきれていない実態が浮かび上がる。

 例えば前半、25本塁打を放ったトラウトの平均角度は17.3度だが、大谷の場合は9.0度(ともに『baseballsavant.com』より)。2人の打球角度をイラスト(図4、図5)で比較すると違いは明らかで、大谷の方が圧倒的にゴロが多い。確率で見ると大谷のゴロ確率は50.5%。トラウトは34.3%(ともに18年前半終了時点『fangraphs.com』より)となっている。

図4:トラウトの打球角度(赤はヒットになった時の角度) 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

図5:大谷の打球角度(赤はヒットになった時の角度) 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 打球を上げられるかどうか――。裏を返せば、そこが大谷の伸びしろにほかならない。奇しくも10日、なぜ、打球が上がらないのかというやり取りになったが、大谷はこう話している。

「思ったより沈んだりとか、手元までこなかったりとか、微妙なところ」

 そこは対戦を重ねることでしか克服できない面もあるのだろう。ただ、これまで登板前後は打席に立たないなど間隔が度々空いたが、後半は投手としてのリハビリ次第ではあるものの、もう少しコンスタントにスタメン出場の機会がある見込み。となると、ケガの功名ともいえ、集中的に目慣らしができる点で、メリットは少なくないのかも知れない。

問われるのはデータの活用の仕方

 むろん、打球の初速や角度がすべてではない。

 平均打球初速4位のガロの平均打球角度は22.9度で、ホームラン打者としては理想的な数値だ。実際、22本塁打はア・リーグ9位タイ、メジャー全体でも12位タイ。ところが、打率は1割8分7厘に低迷。すでに132三振を喫し、09年にマイク・レイノルズが作った223個という不名誉なシーズン最多三振記録を更新する勢い。

 もともと、フライを打とうとすることで、空振りが多くなるというリスクは指摘され、08年以降、リーグの総三振数は毎年増加。今季も過去最多を更新する勢いで、打球の初速や角度が注目される一方、負の側面も目立つようになってきた。

 結局、打球角度のデータなどをどう活用するか、そこが問われている。次回は相手チームの投手視点で、大谷の打球角度を上げないようにどう攻略しているかに触れていく。

<後編は7月26日掲載予定>

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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