メモリアルデーに歴史を作ったクロアチア 日々是世界杯2018(7月11日)
モドリッチについての個人的な思い出
試合会場の前でポーズをとるクロアチアの若い女性。おそらく20年前の記憶はほとんどないだろう 【宇都宮徹壱】
さて、この日の準決勝。個人的な思い入れはクロアチアに、それも10番を付けたルカ・モドリッチに向いていた。実は私は2006年、ディナモ・ザグレブに所属していた当時20歳のモドリッチにインタビューをしている(当人によれば「日本人から取材を受けたのは初めて」とのことだった)。また同年のW杯直前には、モドリッチの代表デビュー戦となったスイスでのアルゼンチン戦も取材している。この試合は若きリオネル・メッシも出場しており、のちにエル・クラシコの10番を背負う両雄が、代表チームで初めて同じピッチに立った瞬間でもあった。
あれから12年。今ではレアル・マドリーの10番となり、クロアチア代表のキャプテンでもあるモドリッチにとり、今回のW杯はまさに自身のキャリアの総決算である。と同時に、祖国の歴史に新たな1ページを加える絶好の機会でもあった。今大会でファイナル進出が決まれば、98年フランス大会で偉大な先輩たちが達成した「世界3位」の記録を20年ぶりに塗り替えることになる。とはいえ、すでにモドリッチをはじめとする主力選手は、2試合連続のPK戦で疲労困憊(こんぱい)。加えて相手は、52年ぶりの決勝進出を目指して勢いに乗る、若きイングランドである。クロアチアの苦戦は戦前から予想されていた。
現地時間21時、ルジニキ・スタジアムでキックオフ。試合は序盤から動いた。前半4分、デレ・アリをモドリッチが自陣ペナルティーエリア手前で倒してしまい、イングランドに絶好の位置からのFKが与えられる。これをキーラン・トリッピアーが正確無比のキックでたたき込み、イングランドが先制ゴールを挙げた。いきなり劣勢に立たされたクロアチアは、思いどおりにプレーできないいら立ちやミスが重なり、前半から焦りの色を濃くしてゆく。ここで追加点を決められたら、ゲームの行方は決まっていただろう。結局、イングランドの1点リードのまま、前半は終了した。
3試合連続で120分間を勝ち切ったクロアチア
試合前にクロアチアのサポーターが掲げた横断幕。「スパシーバ(ありがとう)・ロシア」と書かれてある 【宇都宮徹壱】
結局、90分では決着がつかず、クロアチアは3試合連続で120分を戦うこととなった。延長後半4分、クロアチアのクロスに今度はウォーカーがクリアするも、ペリシッチがヘディングでゴール前にボールを供給。これにマリオ・マンジュキッチが素早く反応し、左足でゴールネットを揺らす。いったいどこに、そんな力が残っていたのだろう。しかし喜びもつかの間、マンジュキッチは足をつって交代を余儀なくされる。殊勲の勝ち越しゴールを挙げた男は「もうPK戦はごめんだよ」とばかりに、ゆっくりとした足取りでタッチラインまで歩き、ベドラン・チョルルカと入れ替わった。
一方のイングランドは、先制ゴールを決めたトリッピアーが内転筋を痛めて、延長後半11分でプレー続行が不可能となる。しかし、すでにイングランドは4枚目のカードを使い切っていたため、残り時間を10人で戦うことに。そして歴史的瞬間のカウントダウンが始まる中、ここまで先発フル出場だったモドリッチが、延長後半14分でようやくお役御免となる。クロアチアのキャプテンが、満ち足りた表情でピッチを後にしたとき、私はクロアチアの勝利を確信した。試合はそのまま2−1で終了。若きスリーライオンズを倒したクロアチアが、史上初となるファイナル進出を果たすこととなった。
記者席のモニターで、歓喜に沸くクロアチアの選手たちとサポーターの様子を眺めながら、自然と胸が熱くなるのを覚えた。くしくも20年前の7月11日は、W杯フランス大会の3位決定戦が行われており、初出場のクロアチアは3位に輝いている。そんなメモリアルデーに、歴史を塗り替える大偉業を達成するとは、何という劇的なストーリーであろうか。そして決勝の相手は、同大会以来2度目の優勝を目指すフランス(20年前の準決勝で敗れた相手でもある)。日程的にも戦力的にも優位に立つフランスだが、クロアチアはまたしても常識を超越した復元力を発揮した。今大会の決勝は存外、スリリングな試合内容となるかもしれない。
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