アルゼンチン撃破でフランス代表が覚醒 「みんながリーダー」で成長する若き集団

木村かや子

壮絶な撃ち合いを制してベスト8進出

アルゼンチンを4−3で撃破し、8強に駒を進めたフランス 【写真:ロイター/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)のような長期の大舞台には、チームのマシンに「スイッチを入れる試合」があると言われる。フランス代表にとっては、もしかすると、ラウンド16の対アルゼンチン戦が、その起爆スイッチとなる試合だったのかもしれない。

 グループリーグを通して、そしてこのアルゼンチン戦の前半でも、いまひとつ輝きを欠いていたフランスは、1−0から1−2と逆転され、そこから4−3と逆転し返したこのアルゼンチン戦で、それまでとは違う爆発力を見せた。

「強豪に対するビッグマッチで、われわれは重要な瞬間、厳しい瞬間に、メンタル的に奮起し、気迫のこもったプレーで反撃する術(すべ)を知っていた」と試合後、ポール・ポグバが言った通り、より大きな脅威を前に、プレーレベルを引き上げて見せたのである。

 これは、フランス覚醒の狼煙(のろし)となるのだろうか? 

 W杯ロシア大会序盤のフランス代表は、2勝1分けで問題なくグループリーグ突破を決めはしたものの、特に攻撃面でのプレー内容がお粗末だったため、国内メディアからやんわりと批判されていた。

 2−1で何とか勝ったグループC第1戦のオーストラリア戦後には、「リズムがない」「パス回しにスピードがない」「プレッシングがバラバラでチームとして統制が取れていない」「選手間の相互理解が希薄」うんぬんと、むしろ批判の方が多く出た。連係に改善が見られた第2戦のペルー戦後には少し評判を回復したが、すでにグループ突破を決めていたためローテーションを行いつつ、0−0のスコアキープに徹した3戦目のデンマーク戦では、その消極性がブーイングを呼んだ。

 懸念されていた守備の方は予想より安定していたが、強みであるはずの攻撃は鳴かず飛ばず。攻撃のリーダーとみなされているアントワーヌ・グリーズマンは、長いシーズンの疲れもあってか、少なくとも最初の数試合では冴えを欠いていた。

 もっとできるはず、いつエンジンがかかるのか、ついに佳境に入るここからか、という不安と期待の入り混じった声を浴びながら、フランスは、対アルゼンチンの大一番に臨む。この日もグリーズマンがPKで先制し、何度かチャンスを決め損ねたのちに、ディフェンスの小さなミスと不運で2失点したところまでは、これまでとほぼ同じトーンだった。

「控えSB」のスーパーゴールが契機に

伏兵パバールの鮮やかなゴールでチームが勢いに乗った 【Getty Images】

 しかしそこから10分もしないうちに、流れとリズムはがらりと変わる。

 引き金を引いたのは恐らく、スコアを2−2とするバンジャマン・パバールの同点ゴールだった。右サイドバック(SB)のパバールは、後半開始早々に、自らのファウルで与えたFKからの相手の攻撃でリオネル・メッシにシュートを許し、それがガブリエル・メルカドの足に当たって軌道が変わり、ゴールになるという不運につながった。しかしその9分後、ペナルティーエリアのすぐ外から、絶妙な体のバランスで放ったハーフボレーのシュートは、小さなミスを帳消しにしたばかりか、試合のムードを一気に変えるほど、鮮やかなものだった。

 そして左サイドからのクロスでそのゴールをアシストし、さらに続く3点目の起点にもなったのが、もう1人のキープレーヤー、リュカ・エルナンデスだった。パバールの得点シーンは、このチームの新しい強みを象徴している。フランスは長らくSBの人材不足が懸念されており、ディディエ・デシャン監督によって今年に入ってから呼び寄せられた22歳のエルナンデスと、昨年11月に初招集された同い年のパバールは、大会直前まで控えのSBとみなされていた選手たちだった。

 ところが、控え選手を慣れさせるために使われたW杯前の親善試合イタリア戦で、2人は非常に印象的な働きを披露。エルナンデスが闘志あふれる守備とスピーディーな攻め上がりで目を引けば、シンプルなプレーが長所のパバールは安定感のある守りと、時折放つ効果的なクロスで持ち味を発揮。2人はレギュラーとなるはずだったバンジャマン・メンディとジブリル・シディベを抑え、本番で先発の地位を獲得した。

 そしてもちろん、パバールの同点弾で得た勢いを逃さずに畳み掛けたのが、並外れた俊足を武器とする19歳のアタッカー、キリアン・エムバペだ。

 2戦目のペルー戦ですでにW杯での自身初ゴールを挙げていたエムバペは、その俊足ゆえ、ディフェンスにスピードがないアルゼンチンとの試合では切り札になると予想されていた。そして、まさにその通りのことが起きる。前半に自陣からスタートしたドリブルで相手ペナルティーエリア内まで進入し、PKを獲得していた彼は、64分にブレーズ・マテュイディのシュートのセカンドボールを拾って切り込み、自ら3−2とする勝ち越し点を奪取。相手の士気が下がった隙を突き、その4分後には、オリビエ・ジル―のパスを驚くべき冷静さでたたいて、再びゴールネットを揺らした。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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