大阪桐蔭のエースを目指す2人の挑戦 柿木蓮&横川凱の原点は“悔しさ”
春連覇も心中は複雑だった柿木
今春のセンバツ決勝で投げられなかった悔しさをバネに、今夏は誰からも認められるエースとしての成長を目指す柿木 【写真は共同】
偉業を達成した歓喜の輪に飛び込むも、心中は複雑だった。
「何で自分が最後にここにおられへんかったんやろ……」
今春のセンバツ。エース番号をつけた柿木蓮の胸の内は、こんな思いでいっぱいだった。優勝投手として2年連続マウンドにいた背番号6の根尾昂は、3回戦の明秀日立戦で9四死球を与えながらも11奪三振1失点で完投勝ちし、準決勝の三重戦では9奪三振無失点のロングリリーフで期待に応えた。根尾の躍動が目覚ましかった大会の裏で、柿木は悔しさと無念さに苛まれていた。
「大事な場面で最大限の自分に持っていける準備が出来ていなかったのが一番悔しかったですね。試合で投げるだけではなくて、投げるための準備やケア…すべてにおいてまだまだだったと思います」
“悔しさを持ってやっていこう”。帰郷後の野球ノートに柿木が書いた言葉だ。エースである以上、最後までマウンドにいることが“責任”であると考えてきた。だが、柿木は春の府大会はメンバーを外れ、マウンドから遠ざかった。“体作りのため”という理由で、敢えて表舞台から離れ、下半身強化のための走り込みなど基礎練習に没頭していた。
「昨年の今頃は実戦に近い練習ばかりだったけれど、今年は原点に返った練習をしています。今年の方が結構きついですよ。でも、センバツでは力不足を痛感したので、これから投げ抜く力をつけないと」
理想のエースを求めて――
昨年、同じ背番号1も同じように悔しさを噛みしめていた。昨年のエースの徳山壮磨(早稲田大1年)だ。徳山も決勝戦は先発しながら9回から根尾にマウンドを譲り、優勝の瞬間のマウンドに立てなかった。だが、徳山はその経験を糧にしてセンバツ以降は自身を追い込み、誰もが認めるエースに成長した。徳山の背中を追ってきた柿木からすれば、徳山の道跡は自分がたどるべき道だと自負している。
「西谷先生からは“野球は体(の大きさ)じゃなくて体を動かす心だ”と言われています。そういう意味では普段からの取り組みや姿勢は大事。経験があるから自分が有利とか、そんなことよりその状況で自分は何ができるか。何をしてくればどうできるか。それを考えながら投げていきたいと思います」
春になり、1年生も入寮してきた。徳山をお手本にしていたように、今後は自分が後輩に背中を見せる番となった。昨夏の甲子園の仙台育英戦で“残酷な”敗戦を喫した柿木のそばで最後まで声を掛け続けた徳山のような存在に、自分もなりたいと思っている。
「下級生から自分たちに聞きたいことも聞きにくいと思うので、あえて自分から言ってあげたり聞きやすい環境を作っていきたい。もちろん、自分もこのままでは終わりたくないです」
最近は読書することが多くなった。石田寿也コーチに勧められた本や、読書好きの根尾から本を借りることも。反対に自分が読んだ本を根尾に貸すこともある。常に何かを吸収していきたい――柿木は今、理想のエースを求め、がむしゃらに走り続けている。