メッシが見せた「不安」の仕草が現実に W杯が始まっても迷い続けるサンパオリ

藤坂ガルシア千鶴

メッシ依存症から抜け出せないチーム

メッシにとって4度目のW杯は、わずか3試合で終わってしまうのか? 【Getty Images】

 ところが実際に予選を戦ってみると、最初のウルグアイ戦でいきなり内容よりも結果が求められる現実に直面してしまう。ゲームの主導権を握りながらも抜群の組織力で壁を築いたウルグアイを前に無得点のドローに終わり、国内のメディアからは「監督が代わってもメッシ依存症から抜け出せないチーム」というレッテルを貼られ、就任2カ月にして早くも、戦術マニアとしては実にやりづらい立場に置かれてしまった。

 結局サンパオリは、代表監督としてのデビュー戦となった昨年6月のブラジル戦(1−0で勝利)からW杯前の壮行試合となったハイチ戦(4−0で勝利)まで、試行錯誤を重ねながら、なんと11試合全てにおいて異なるフォーメーションとメンバーを起用した。「迷い」を抱えたままの状態でW杯に向けた国内合宿をスタートさせ、その後バルセロナでの直前キャンプに入っていたのである。

 それでも大方のメディアや一般のファンの多くは、国内合宿を経て基本となるメンバーを探り、直前キャンプでオプションを試しつつ、イスラエルとの親善試合を挟んだ開幕までの2週間でチーム力を高めることが可能だろうと確信していた。イスラエル戦は結局、エルサレムが会場となることに猛反対するパレスチナからの抗議と、メッシに対する脅迫を理由に中止となったが、サンパオリとチームにとっては好都合だった。というのも、W杯までの限られた時間の中で2日半を移動と親善試合に費やす代わりに、3日間じっくりとゲーム練習に打ち込むことができたからだ。

ブーイングを浴び、国内でも一級戦犯に……

GKカバジェロ(右)のミスもあり、アルゼンチンはクロアチアに0−3で完敗 【Getty Images】

 だが、初戦まであと1週間という時期になって、メッシのパートナーとしてレギュラーの座が確定していたマヌエル・ランシーニが右膝十字靱帯(じんたい)裂傷のけがを負ってしまう。そして、ランシーニの代わりに招集されたペレスは全く異なるタイプのMFだったことから、アルゼンチン代表が抱えるもうひとつの深刻な問題である「中盤の人材不足」が浮き彫りになった。いずれも「うまい」選手であることに間違いはないが、メッシと一緒にプレーできるレベルの選手が明らかに欠如しているのだ。

 それでもアイスランド戦のメンバーとフォーメーションについては、サンパオリ監督も比較的早い段階で決断を下し、試合前日の会見で先発布陣を明かすほどの余裕を見せていた。ところが、続くクロアチア戦に備えた練習では連日異なるチームをテストし、前日会見で先発メンバーを聞かれると「まだ決めていないので」という理由で公表せず、一度崩したパズルのピースをうまく組み合わせられない状態にあることを示してしまったのである。

 クロアチア戦では結局、一度は「われわれのゲームプランに順応できていない」と低評価を下し、メッシとの同時起用はないことを示唆していたパウロ・ディバラを途中から交代出場させるほど必死だったサンパオリ。GKウィリー・カバジェロの致命的なミスから相手に先制点を与えてしまったあとも、動揺する選手たちに的確な指示を与えて冷静さを維持させるどころか、自身もナーバスになってクロアチアの選手を罵倒するという低俗な行為に出てしまったため、スタジアムではアルゼンチンサポーターからブーイングを浴び、国内でも完全に“一級戦犯”扱いされてしまっている。

 決勝トーナメントに進出できる可能性はまだ残されているが、選手たちは「W杯が始まっても迷い続ける監督」に対する信頼を失ってしまった。契約は4年後のW杯カタール大会終了後まで残されているものの、もはやアルゼンチン国民は、サンパオリの一刻も早い退任を願う状況となっている。

 窮地に立たされたアルゼンチンにこのあと、どのような運命が待っているのか。それはまだ誰にも分からない。

2/2ページ

著者プロフィール

89年よりブエノスアイレス在住。サッカー専門誌、スポーツ誌等にアルゼンチンと南米の情報を執筆。著書に「マラドーナ新たなる闘い」(河出書房新社)、「ストライカーのつくり方」(講談社新書)があり、W杯イヤーの今年、新しく「彼らのルーツ」(実業之日本社/大野美夏氏との共著)、「キャプテンメッシの挑戦」(朝日新聞出版)を出版。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント