本塁打トップも打率低迷のハーパー それでもオフは“ブライスの冬”が到来

杉浦大介

争奪戦を前にした重圧か?

プレーだけでなく、歯に衣を着せぬ言動で注目を集めるハーパー、今オフの争奪戦は必至 【Getty Images】

 今季のハーパーは確かに本塁打こそ打っているが、打率2割2分4厘と低迷中。特に左投手に対して打率2割7厘と脆さが目立ち、ヤンキー・スタジアムでの2連戦でも無安打に終わった。FA争奪戦を目前に控えた重圧が影響しているという意見もあり、真価を疑う声も少しずつ出てきている。

「ナショナルズに残留するかどうかは半々だと思う。ヤンキースはハーパーにとって環境的には理想に近いのかもしれないが、かといってジャッジ、スタントンが属しているチームにフィットするかは疑問だ。外野に長距離砲は3人もいらない。ヤンキースが必要なのはマチャドの方だろう」

 ワシントンDCのある地元記者が述べていた通り、ヤンキースにより需要があるのは昨季まで球界最高級のサードと評されてきたオリオールズのマチャド(今季はショートを務める)に違いない。ハーパーに関しては、ドジャース、カブス、フィリーズ、ナショナルズといった大都市チームのいずれかが狙いを定めることになるのではないか。

 ただ……それでも“ハーパー争奪戦”でヤンキースを完全に見限るべきではないのだろう。近年は珍しく緊縮財政を敷いたが、もともとこのチームに不可能な投資は存在しない。今季は給料総額をリーグ7位と低く抑えたおかげで、来季以降はラグジュアリータックス(贅沢税)をより低額にすることが可能になる。右翼の狭いヤンキー・スタジアムは、もともと左打ちのパワー打者には適した環境でもある。だとすれば?

 西海岸出身のスタントンを今季終了後に故郷ドジャースにトレードし、ペイロールと外野の一角を空ける強引な手段のアイデアもある。例え理屈に合わなくても、ヤンキースに関しては「Never say never(“絶対ない”はあり得ない)」。昨オフもほとんどノーマークの状態から、17年ナ・リーグMVPのスタントンを“強奪”したことを忘れるべきではない。

毀誉褒貶の激しさはスターの証し

 ともあれ、ハーパーの周囲で喧騒(けんそう)の日々は続きそうである。来月、地元ワシントンDCで開催されるオールスターでも目玉的存在になり、一挙一動が注目されるはずだ。

「これまでずっと話し合ってきているけど、ブライスはここで勝ちたがっている。そして、私たちは彼にナショナルズの一員でいて欲しいと願っている」

 デイビッド・マルティネス監督はそう語るが、ハーパーの近未来に関する周囲の興味が収束することはない。このまま2割台前半の打率が続いたとしても、歓声とブーイングはとどまるところを知らない。毀誉褒貶(きよほうへん)の激しさはカリスマの証明。その派手好きなスタイルが好みではなくとも、これだけスター性があり、物議をかもす選手がいることを、ベースボールファンは喜ぶべきだろう。

 NBAでは帝王レブロン・ジェームズが再びFAになり、まもなく「The Summer of LeBron(レブロンの夏)」と呼ばれる季節が始まる。一方で、MLBも約半年後には「The Winter of Bryce(ブライスの冬)」に揺れるのか。ヤンキースか、あるいは他の名門チームか、次の職場がどこになるかはわからないが、球界の風雲児が今後もベースボールファンを大いに楽しませてくれることは間違いないはずである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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