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未知の領域への挑戦を続ける菊野克紀
“怖い”気持ちから始まった格闘家精神
キックボクシング初参戦となる“求道者”菊野克紀にインタビュー
キックボクシング初参戦となる“求道者”菊野克紀にインタビュー【スポーツナビ】

 キックボクシングイベント「KNOCK OUT 2018 SURVIVAL DAYS」が8日、東京・後楽園ホールで開催される。


「KING OF KNOCK OUT初代フライ級王座決定トーナメント1回戦」が2試合、「スーパーライト級王座決定トーナメント準決勝」が2試合組まれるなど全6試合となる今大会。中でも異色のカードとなったのが、第3試合の70キロ契約3分5ラウンド、“ムエタイゴリラ”T-98 vs.“求道者”菊野克紀のワンマッチだ。


 ムエタイの最高峰ラジャダムナンスタジアムで王座を獲得したT-98に対し、キックボクシングは初参戦となる菊野。しかし総合格闘技での実績や、最近ではテコンドーで2020年東京五輪を目指すと明言しており、未だ“強さ”を追求する菊野が、日本屈指のファイターに立ち向かう形になり注目を集める。


 今回は試合を目前に控えた“求道者”菊野に話を聞いた。

ビジネスとは違う格闘技の道

挑戦を決めるのは「ワクワク感」。ただ試合自体には怖さもあると話す
挑戦を決めるのは「ワクワク感」。ただ試合自体には怖さもあると話す【スポーツナビ】

――東京五輪出場を目指してのテコンドー挑戦、そして今回KNOCK OUTでのT-98戦と思いがけない展開が続きますね。


 1年前にはテコンドーをやるとかキックボクシングをやるとか想像していないですよね。でも格闘技をやってきて、一寸先が分からない感じで、今までずっとそんな繰り返しでした。よく「未来のビジョンをしっかり描け」と言われますけど、難しいですよね。格闘技は勝ち負けがハッキリ出るので、思い描くのは勝ち、勝ち、勝ちの未来ですが、やっぱり負けることだってあるし、そうなった時点でパンと思い描いた道が消えちゃうんです。そういうことの繰り返しなので、ビジネスとはちょっと違うんでしょうね。積み上げていくというより、1回1回が勝負だと。それに、全部勝てるほど甘いものではないですから。


――ただ菊野選手はそういった思いもかけない挑戦を楽しんでやっているのではないですか?


 試合を決める瞬間は、ワクワクするかどうか、面白いかどうかで決めます。だけど決まったら、怖くて怖くてしょうがないです(苦笑)。


――では、テコンドー、キックボクシングへの挑戦も面白そうだと思ったからやるのを決めた?


 そうですね、これはやらなきゃ損だろうと。人生楽しい方がいい、怖い方が面白いって選ぶんですけど、いざやるとなるともう怖くてしょうがないです(苦笑)。単純に痛みとか恐怖とか本能的なストレスに向き合いますし、いろいろなリスクも背負いますからね。

“化け物”T-98との戦いは「今までで一番怖い」

「巌流島」では豪快な勝利を重ねたが、キックボクシングはグローブの違いなどもあり、簡単ではないと感じている
「巌流島」では豪快な勝利を重ねたが、キックボクシングはグローブの違いなどもあり、簡単ではないと感じている【写真:田栗かおる】

――菊野選手は今回がキックボクシング初挑戦となりますが、試合へ向けての準備はどのように?


 キックボクシングのスパーリングを多くやってきました。キックボクシング自体をやっても勝てないので(苦笑)、違うことをやるのが僕の勝ち目だと思ってます。


――最近の「巌流島」での豪快な勝ちっぷりを見ると、十分キックボクシングでも行けそうに思うのですが?


 それがまったく違って、正直オープンフィンガーグローブでやらせてもらえるなら負ける気はしないし、全然こんな気持ちにはならないんです。ただ、あのグローブ(=ボクシンググローブ)でやるってなっていろいろ試したんですけど、まぁ難しいなと。まったく勝手が違います。グローブというものは武器でもあり盾でもあるんです。だからそれをいかに上手く使うかっていうのはすごく重要で、沖縄拳法空手の突きはもちろんあのグローブでもそれなりの威力は出せますが、やはりオープンフィンガーグローブのようにはいかないんです。


――同じグローブであってもそこは異なると。


 重心というのは骨などの硬いもので伝わるんですけど、クッションがあるとその重心が吸収・分散されてしまうんです。だからボクシンググローブはオープンフィンガーグローブに比べクッションがあるので威力が吸収・分散されてしまう。だからそれを見越した上で沖縄拳法を活かした別の突きを打たなきゃいけない。他にもいろいろ手かせというか、障害があります。


――そうした中で対戦するT-98選手を菊野選手は「化け物」と評しました。改めてその実力を菊野選手から解説願います。


 単純にラジャダムナンのチャンピオンになっているというのはとんでもないことですよね。世界で1番と言っていいぐらいです。スタイルも本当に穴がないというか、しっかり相手を削って潰して、パンチ、ロー、ヒザ。付け入る隙がないなっていう感じがします。だから本当に無事で帰れるイメージがつかないです(苦笑)。


 僕は11月に鹿児島で自主興行をするんですけど、それを前に大ケガをしたらたくさんの人に迷惑をかけるし、そういうストレスやリスクがあるんですけど……。かと言ってそんな選手とやるのにケガをしないなんてことはありえない。でも、自主興行「敬天愛人」は、勇気と感謝を体現して伝えることをイベントのテーマにしているので、だからこそこの試合を選んだというのがあります。だから僕の中でもう「敬天愛人」は始まっているんです。


――なるほど、自主興行を前にまずこの試合で自らの勇気を示すと。


 ある意味、今までで一番怖いです。これまで無差別をやったりいろいろやってきましたけど、初めてのルール、分からないことってやっぱり怖いです。慣れないことは緊張しますし。そしてまたその中でそんな化け物とやる。しかも3分5ラウンドってどれだけ苦しんだって。いやぁ、考えただけでストレスです。

「力を1番出せるのは自分を受け入れ集中した時」

ファンへ「試合を通して何かいいものを感じてもらえたら」とメッセージを送る
ファンへ「試合を通して何かいいものを感じてもらえたら」とメッセージを送る【スポーツナビ】

――今回菊野選手は未知の領域、怖さを感じる世界へ勇気を持って飛び込む訳ですが、同じように何かに対し踏み込めずにいる、勇気を出すことができないでいる人たちに伝えたいメッセージはありますか?


 やっぱり怖いんですけどそれはしょうがないし、悪いことでもないんです。それを無理にフタをして強がっても、そんなメッキというのは今まで何度も簡単に剥がれてきました。「俺やりますよ」「勝ちますよ」とか言っても、そんなものはペラっと剥がれてしまう。だから等身大の自分、怖がっている自分を受け入れて、やれることをやっていく。勝ち目を積み上げていって最後は無になる、考えないというのが1番良いパフォーマンスが出せるんです。結果は分からないですよ。僕がどれだけ努力をしようが、勝ち負け、結果は分からないけど、少なくとも僕の力が1番出せるのは、自分を受け入れて集中した時です。なので、またそれをやるしかないかなと。


『修羅の門』という漫画が大好きで、主人公の陸奥九十九が「戦うっていうのは怖いっていうことだ。そして、そこから逃げないってことだ。怖いってことと、逃げることはイコールじゃない」と言うんです。怖いからこそ戦いであり、勇気であり、この“怖い”というのが僕が格闘家になった意味でもあるといいますか。元々ビビりな自分が嫌いで、怖い思いに向かっていきたい、強くなりたいから格闘技を始めたし、それで格闘家になったのでそれがずっと初心です。なので僕にとって“怖い”というのはいいことだし、緊張するとか嫌だって思うこと自体価値があって、意味があるんです。


――強がるようなメッキというのはやはり簡単に剥がれてしまうものだと。


 それで上手くいくパターンもあるでしょうし、僕自身上手くいったこともあります。なのでこれはケースバイケースだし、人によるのかもしれないですけど、僕は「怖いです」という、こっちのタイプです(苦笑)。


 本当に“極限の場”というのは本当のことしか出ないと思うんです。本当のことしか出なくて、だからメッキは絶対剥がれます。自分にプレッシャーを掛けて奮い立たせて集中力を高めるという人もいるかもしれないし、一概には言えないですけど、それは多分メッキじゃないんでしょうね。その人の中に確たるものがあって、それが合わさった時に結果が出ているんだと思います。


 ただ、僕は今回初めてのことだし、確たる自信なんて持ちようがないのでしょうがないです。だから怖いし、「大丈夫です」と本音では言えないです。本音じゃないとそこに力は宿らないと思いますし。


――では、菊野選手にとってそうした不安と恐怖と戦う一戦ともなるT-98戦へ向け、改めて最後に思い、意気込みをお願いします。


 まずお声を掛けて頂いたKNOCK OUTと試合を受けてくれたT-98選手に感謝です。彼は彼ですごいものを背負っていると思うし、僕みたいな部外者との試合を受けて頂いて本当にありがたいです。そしてたくさんの人が今回の試合を楽しみにしてくれているようなので、それもありがたいです。なので、あの場でよいパフォーマンスを発揮するというのが僕のやるべきことだと思うので、そのために最善を尽くします。そして試合を通して何かいいものを感じてもらえたらうれしいです。

長谷川亮

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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