「イングランドDNA」は浸透しているか 改革進める協会、ロシアW杯での目標は?

山中忍

新機軸のスタイルを支えるキーマンは?

フィジカルからテクニックへ。足技に優れたCBストーンズ(右)はその象徴だ 【Getty Images】

 変化の好例が、守護神の交代だ。予選突破までゴールを守ったジョー・ハートは、GKとしては“まだ31歳”でビッグセーブもお手のものだが、今夏は経験値のある控えとしてのロシア行きが限界だろう。理由は足元の技術不足。ロングキックを多用するハートは、所属のマンチェスター・シティでも、GKにビルドアップの働きを求めるペップ・グアルディオラの監督就任を機にレンタル移籍が続いている(昨季はトリノ、今季はウェストハムでプレー)。そして、代表監督にも志向するスタイルに合わないGKと判断されてしまった。W杯本番では、数名の候補者の中で最も「足元」に安定性があり、予選終了直後のテストマッチとなった昨年11月10日のドイツ戦(0−0)で真っ先に試された、24歳のジョーダン・ピックフォード(エバートン)の正GK抜擢(ばってき)が濃厚だ。

 新たな3バックのキーマンは、国産現役センターバック(CB)では最もボールが持てるジョン・ストーンズ(マンC)。サウスゲートがユース代表監督時代から、足元の技術とボールを持つ勇気に注目していた23歳だ。彼はドイツ戦の4日後に行われたブラジル戦(0−0)でも、さすがに守勢を余儀なくされたピッチ上で、ボールを奪い取っては後ろから組み立てる姿勢が目を引いた。ボールの持ち過ぎなど、判断を誤って危機を招くことはあるものの、代表指揮官は「ミスから学べば良い」と、使って育てる意欲も口にしている。

 チームを縦に貫く背骨の中央には、中盤の闘将として信頼が厚く、激しいタックルで敵の侵入を止めるジョーダン・ヘンダーソン(リバプール)が欠かせないが、2ボランチで相棒となるエリック・ダイアー(トッテナム)は、やはりパスの能力とセンスに長けた守備のオールラウンダーだ。W杯本番では、ドイツ戦、ブラジル戦で試された3−4−2−1と、ダイアーをCBに回す3−1−4−2を使い分けることになると思われる。より攻撃的に機能させやすい後者は、今年3月のオランダ戦(1−0)とイタリア戦(1−1)での試用も上々。グループリーグ最終戦で強敵ベルギーと当たる前に決勝トーナメントへの足場を固めたいイングランドが、順当勝ちを狙うチュニジアとパナマとの開幕2戦で採用すべきシステムでもある。

 最前線では1トップと2トップの別にかかわらず、ハリー・ケイン(トッテナム)が生命線だ。プレミアリーグで4シーズン続けて20得点以上を記録している24歳は、空陸両用のフィニッシュに加え、ボールタッチ、長短のパス、細かい連係、献身的な守備といった面でも秀でた絶対的なエースだ。背後からサポートするチャンスメーカーは、繊細なテクニックと図太いハートを持ち合わせる22歳のデレ・アリ(トッテナム)が第一人者。両者はクラブでもホットリンクを形成する。

期待されるのは成果よりも復興の証拠

まだ優勝候補の国とは差があるが、ロシアW杯で復興の兆しを示せるか 【Getty Images】

 サウスゲートは、大会前の合宿でチームの仕上げに集中すべく、5月13日のプレミア最終節から日数を置かずにW杯メンバーを発表するつもりでいる。交代要員としてではあるが、招集の有無が興味深い選手の1人がルーベン・ロフタス=チーク。今季はレンタル先のクリスタル・パレスで活躍したが、元々はチェルシーで育成され、トップ下もセンターハーフも務まる22歳は、同世代のアリとユース時代から比較されてきた。U−16代表当時から成長を見守っていたサウスゲートが、昨年のドイツ戦でA代表デビューの機会を与えると、マン・オブ・ザ・マッチに輝くパフォーマンスで期待に応えている。

 もっとも、当日のピッチで対戦したレロイ・サネ(マンC)もロフタス=チークと同世代。ドイツ代表MFは、今季プレミア優勝への貢献を買われPFA(プロ選手協会)年間最優秀若手選手賞に輝いている。10年W杯で確認された選手層を含む優勝候補との戦力差は、まだ埋まってはいない。

 ただし、今夏のW杯で国民が代表に期待している結果は、改革の最終的な成果ではなく、代表が復興に向かって進化している証拠だ。イングランド人の代表番記者たちに聞いてみても、「ベスト8なら文句なし」との答えが返ってきた。サウスゲートは、指揮官として自身が内胞する「イングランドDNA」の浸透度を、W杯のピッチでさらに高めることを念頭にロシア大会に臨めばいい。母国民が再び胸を張って「サッカーの母国」を自負できる4年後を目指して。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント