スペインの「らしさ」はこうして育まれた 勝利の10年につながった協会の成功モデル
もう自分たちのサッカーを探す必要はない
W杯ロシア大会にも、すっかり代名詞となったパスサッカーで挑む 【Getty Images】
必要なのは結果であり勝てるスタイルであるという代表で、3冠がパスサッカーによってもたらされたというのはスペイン全国民が目撃した歴史的な事実である。デル・ボスケ率いるチームはW杯ブラジル大会でも、ユーロ2016でもグループステージで敗退したが、後任のフレン・ロペテギ現監督はパスサッカーを継承する者の中から選ばれた。パスサッカーというぶれない幹(=プレースタイル)があり、そこに枝葉(=戦術的な工夫)を付けるのが代表監督、というのが勝利の10年で一貫した考え方だった。アラゴネスが提唱したスタイルに、デル・ボスケは2ボランチやゼロトップという独自の解釈を加え、ロペテギは旬の攻撃的MF4人にクリエーティブな部分を全面的に任せる4−1−4−1を生み出した。日本のように代表監督によってプレースタイルが一変する時代には、タイトル獲得をもって終止符を打つことができたのだ。
とはいえ、アラゴネス抜てきという手柄があったとしても、このスタイル確立は協会が上から成し遂げたものではない。日本では強化にも協会が決定的な影響力を持っているようだが、スペインでは違う。育成に関しては協会は各クラブに投げっ放しであり、「パスサッカーこそわれわれの目指す道だ」式の命令を協会がクラブに下すのを聞いたことがない。
そうではなくて現実は、育成世代にすでに広く浸透していたスタイルを協会がフル代表にも取り入れたにすぎない。それもある日突然そう方針決定したのではなく、パスサッカーで育てられた選手たちがアンダー世代のユーロやW杯でタイトルを獲得していき、彼らがフル代表のメンバーになるという流れの中で徐々に、自然と変わっていったのだった。つまり、協会主導ではなくその逆、下から上への改革だったのだ。
パスサッカーを志向するという必然
現代表監督のロペテギは、前任者たちの遺産をベースに自分の色を加えている 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
現チームの顔ぶれを見てもらえば、バルセロナ出身者の比率が下がっていることに気が付くかもしれない。少年レベルではレアル・マドリーでもエイバルでも、みなパスサッカーを実践しているのだから当然そうなる。監督についても同様で、クライフに直接・間接的に学んだ者だけではなく、今は元対戦相手からですらパスサッカーの志向者が出てきてリーガ・エスパニョーラで采配を振るっている。代表に外国人監督が招聘(しょうへい)される可能性も、勝利の10年を経て限りなくゼロに近づいたということだ。
まとめると、監督人事の的中という協会のメリットと、機が熟する格好での育成世代の押し上げによってプレースタイルが確立、ユーロとW杯の3冠をもたらすことになったその貴重な成功モデルを大事になぞっていったというのが、ここ10年間のスペインサッカー協会による代表強化策、と言えるのだ。